王子さまと七色のカラス ~眠れる城のお姫さま~

楪巴 (ゆずりは)

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13. きせき ~まぁ、まぁ、これはどういうこと、ふしぎだわ!~

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「ああ、よかった。気がついた」


 王子おうじさまはカラスをきあげ、ほおにあてました。

 王子おうじさまのぬくもりを感じながら、これはゆめだろうとカラスは思いました。同じことを前にも言われたから、きっとそのゆめを見ているのだ、と。


「……そなたは、やはりあの時のカラスだったのだな」


 そのことばに、カラスはゆめではないと気がつきました。

 最後さいごの七色の欠片かけらがぱらりとはがれ、の光にけて消えていきます。

 もう王子おうじさまの前にはいられないと思い、カラスはびたとうとしました。けれども、水をすった羽では、ほんの少しうき上がることしかできません。


王子おうじさま、ごめんなさい」


 カラスはとうとうなみだを流し、すべてをうち明けました。

 うそをついてしまったことが後悔こうかいとなって、ぽろぽろとひとみからあふれてきます。王子おうじさまにきらわれてしまったことが悲しくて、なみだが止まりませんでした。

 王子おうじさまは、カラスのなみだを指先ゆびさきでぬぐい、さびしそうに言いました。


「なぜ、その黒い羽をてたのだ。わたしは、そなたの羽をきれいだと言ったのに、なぜ……」


 カラスは泣きはらした顔をあげ、きょとんとしました。

 そして、まだぬれている羽をばたばたさせました。

 王子おうじさまとはじめてことばをかわわした時のように、羽からった水滴すいてきが、流れ星のようにカラスと王子おうじさまの間を流れました。


「急に、どうしたのだ?」


 今度は、王子おうじさまがきょとんとする番でした。

 カラスはふしぎに思ってたずねます。


「あの……王子おうじさまは、ぼくの羽からった水滴すいてきを見て、きれいだと言われたんじゃ……?」


 王子おうじさまは目をぱちくりさせ、大きな声で笑いました。


「いやいや、そうではない。わたしは、そなたの黒い羽をきれいだと言ったのだ。まるで黒曜石こくようせきのようではないか」


 黒曜石こくようせきは黒い宝石ほうせきのことです。

 思いがけないことばに、カラスのひとみから、またなみだがあふれました。


「で、でも……この羽を不吉ふきつだと言う人も……」


 しおれた声で言うカラスに、王子おうじさまはりりしいお顔で言いました。


「では、聞こう。そなたは、この羽でただの一度でもわざわいをもたらしたことがあるのか?」

「あ、ありません!」


 王子おうじさまはカラスの頭をなでました。


「ならば、そのようなことばに耳をかすことはない。わたしは、黒い羽が不吉ふきつだなどと、思ったことはないのだから。それに、わたしはそなたに言ったはずだ。そなたは、わたしのかけがえのない友だ。黒い羽でも七色の羽でもなく、そなたがそなただからこそ、わたしは言ったのだ」

王子おうじさま……」


 カラスは、うれしくてわんわん泣きました。

 すると、カラスと王子おうじさまを見守っていた小鳥たちが、急にさわぎ出しました。


「ねぇ、見て、どうなっているのかしら!」

「まぁ、まぁ、これはどういうこと、ふしぎだわ!」


 小鳥たちのことばに、王子おうじさまとカラスは顔をあげました。

 小舟こぶねから湖を見わたし、そろって両目りょうめを大きく見開きます。


「なんと……これは……」


 王子おうじさまとカラス、そして小鳥たちを乗せた小舟こぶねを中心に、湖が七色にかがやいていました。

 魚がはねたところからは七色の波紋はもんが生まれ、それがいくえにも重なると、いっそう美しく見えました。カラスにかけた女神さまの七色の魔法まほうが、湖にとけたのです。

 王子おうじさまは湖の水を手ですくいました。

 すると、手の中はたちまち、七色の光でたされました。
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