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9. 手がかり ~王子さま、ぼくも手伝います~
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王子さまは仕事を終えると、決まってどこかへいなくなってしまいます。
どうやら、お姫さまのお見舞いにひとりで行っているようです。
カラスは王子さまに、お姫さまのことについてたずねたことはありません。聞いたことで、王子さまを悲しませてしまわないか心配だったのです。
カラスは、お姫さまがお城の南側の部屋で休んでいると、侍女たちのうわさ話で知っていました。となりの国の王さまは、もっとも医学が進んでいるこの国に、お姫さまのことをまかせたのでしょう。
お見舞いから帰ってくると、王子さまはいつも机で本を読んでいました。
太陽が月に変わって部屋が暗くなっても、王子さまは本を読むことをやめません。やがて、ロウソクの炎がそこかしこに灯り、かべに影をつくりました。
「王子さま、何をそんなに熱心に読まれているのですか?」
カラスは机の上に飛び乗って、ロウソクの明かりに照らされた本をのぞきこみました。
カラスにはとてもむずかしい内容でしたが、それは医学書のようでした。
「もしかして、お姫さまの……」
思わずつぶやいてしまい、カラスははっとくちばしを羽でおさえます。
王子さまは、力なくほほえみました。
「そなたは知っていたのだな。姫の病のことを」
カラスは気まずそうにうつむき、けれども思い切ってたずねました。
「お姫さまの病気は、だいぶお悪いのですか?」
「よくはない。苦しんでいないのが、せめてもの救いだが……」
「それは、どういうことですか?」
苦しみのない病気というものが想像できなくて、カラスは首をかしげました。
「眠っているのだ。今日でもう十日になる。城の医者が手をつくしてはいるが、いっこうに目覚める気配がない」
自分の無力さに、王子さまは机の上でこぶしを強くにぎりしめました。
「だが、ひとつだけ手がかりを見つけた。《七色のしずく》があれば、姫を目覚めさせることができるのだという」
カラスが本を見ると、《七色のしずく》の絵がありました。
「それは、どこにあるのですか?」
カラスは、これはすぐにでもさがしに行かなければなるまい、と思いました。
とたんに、王子さまは顔をくもらせました。
「湖の底にあるというのだ。しかし、湖といってもどの湖なのか……この城にもあるし、国中さがせばいくらでもある」
カラスにも、ひとつひとつの湖を確かめることが、どんなに大変なことか想像できました。でも、お姫さまを助けるためならば、どんなことでも手伝おうと思いました。
「王子さま、ぼくも手伝います。だから、どうか元気を出してください」
「ありがとう。そなたは、わたしのかけがえのない友だ」
王子さまは心からの笑みをうかべました。
どうやら、お姫さまのお見舞いにひとりで行っているようです。
カラスは王子さまに、お姫さまのことについてたずねたことはありません。聞いたことで、王子さまを悲しませてしまわないか心配だったのです。
カラスは、お姫さまがお城の南側の部屋で休んでいると、侍女たちのうわさ話で知っていました。となりの国の王さまは、もっとも医学が進んでいるこの国に、お姫さまのことをまかせたのでしょう。
お見舞いから帰ってくると、王子さまはいつも机で本を読んでいました。
太陽が月に変わって部屋が暗くなっても、王子さまは本を読むことをやめません。やがて、ロウソクの炎がそこかしこに灯り、かべに影をつくりました。
「王子さま、何をそんなに熱心に読まれているのですか?」
カラスは机の上に飛び乗って、ロウソクの明かりに照らされた本をのぞきこみました。
カラスにはとてもむずかしい内容でしたが、それは医学書のようでした。
「もしかして、お姫さまの……」
思わずつぶやいてしまい、カラスははっとくちばしを羽でおさえます。
王子さまは、力なくほほえみました。
「そなたは知っていたのだな。姫の病のことを」
カラスは気まずそうにうつむき、けれども思い切ってたずねました。
「お姫さまの病気は、だいぶお悪いのですか?」
「よくはない。苦しんでいないのが、せめてもの救いだが……」
「それは、どういうことですか?」
苦しみのない病気というものが想像できなくて、カラスは首をかしげました。
「眠っているのだ。今日でもう十日になる。城の医者が手をつくしてはいるが、いっこうに目覚める気配がない」
自分の無力さに、王子さまは机の上でこぶしを強くにぎりしめました。
「だが、ひとつだけ手がかりを見つけた。《七色のしずく》があれば、姫を目覚めさせることができるのだという」
カラスが本を見ると、《七色のしずく》の絵がありました。
「それは、どこにあるのですか?」
カラスは、これはすぐにでもさがしに行かなければなるまい、と思いました。
とたんに、王子さまは顔をくもらせました。
「湖の底にあるというのだ。しかし、湖といってもどの湖なのか……この城にもあるし、国中さがせばいくらでもある」
カラスにも、ひとつひとつの湖を確かめることが、どんなに大変なことか想像できました。でも、お姫さまを助けるためならば、どんなことでも手伝おうと思いました。
「王子さま、ぼくも手伝います。だから、どうか元気を出してください」
「ありがとう。そなたは、わたしのかけがえのない友だ」
王子さまは心からの笑みをうかべました。
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