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38. 一緒に最良の選択をしよう。
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金色の瞳が、柚姫の答えを待ちながらも僅かに怯えの光を宿して揺れている。その怯えを取り払うように、柚姫はあふれる想いを口にした。
「私も、トワのことが好きだよ。トワが私のことを思ってくれてるのと同じくらいに、トワが好き。だから――」
視線に力を込めて言う。
「仲間になりたいって言った気持ちはうそじゃないし、同情でもないよ……っ」
「柚姫……」
トワはぎゅっと柚姫を抱き締めた。
「でも……」
トワの胸の中で、柚姫は少し躊躇うように身をよじった。
吸血鬼になってもいいと、そう思った心にうそいつわりはないが、それでも、今まで人間として生きてきた柚姫が、血を糧として生きる魔物へと変わることに、何の抵抗もないと言えばうそになる。
「分かっている……」
「え?」
トワは、柚姫の不安を抱き締めるように言う。
「柚姫の愛も、不安も、恐れも……全部。だから、一緒に最良の選択をしよう」
「選択……?」
小さく訊き返す柚姫に、トワは優しく微笑む。
「そうだ。柚姫が吸血鬼になるか、私が人間になるか……これは二人で決めなければならない、選択だ」
まだ時間はある、焦らず考えればいい、とトワはつけ加えた。
トワは、待ってくれると言っているのだ。そして、柚姫がどちらを選んでも構わないと。
それは、何て深い愛なのだろう。
トワの愛情の深さに柚姫が瞳を潤ませると、トワは何を思ったのか、急に身体を起こして柚姫から離れた。
「トワ……?」
突然放り出され、どうしたのかと柚姫も起き上がる。ふしぎそうに首を捻ると、伸びてきた手に、半ば強引に正面を向かされた。
「ちょっと、何す……」
「大切なことを忘れていた」
「は? 大切なこと?」
「思えば、あいつに邪魔されて、まだだった」
「まだ?」
一体何のことを言っているのか。
「思い出さないか?」
きょとんとする柚姫の顎を、今度は慣れた手つきでぐいっと上向かせる。
あ、と声をあげたのも束の間、トワの金色の瞳が間近に迫り、柚姫はやっと状況を理解した。
「まだ思い出さないか?」
「え? もう、思い出――」
柚姫の言葉はトワの唇に遮られた。
「ん……」
吐息が重なり、一つになる。柚姫はそっと目を閉じた。
トワをもっと感じたい……
そう思って、トワの背中に腕をまわすと、優しく抱き締めてくれた――
「私も、トワのことが好きだよ。トワが私のことを思ってくれてるのと同じくらいに、トワが好き。だから――」
視線に力を込めて言う。
「仲間になりたいって言った気持ちはうそじゃないし、同情でもないよ……っ」
「柚姫……」
トワはぎゅっと柚姫を抱き締めた。
「でも……」
トワの胸の中で、柚姫は少し躊躇うように身をよじった。
吸血鬼になってもいいと、そう思った心にうそいつわりはないが、それでも、今まで人間として生きてきた柚姫が、血を糧として生きる魔物へと変わることに、何の抵抗もないと言えばうそになる。
「分かっている……」
「え?」
トワは、柚姫の不安を抱き締めるように言う。
「柚姫の愛も、不安も、恐れも……全部。だから、一緒に最良の選択をしよう」
「選択……?」
小さく訊き返す柚姫に、トワは優しく微笑む。
「そうだ。柚姫が吸血鬼になるか、私が人間になるか……これは二人で決めなければならない、選択だ」
まだ時間はある、焦らず考えればいい、とトワはつけ加えた。
トワは、待ってくれると言っているのだ。そして、柚姫がどちらを選んでも構わないと。
それは、何て深い愛なのだろう。
トワの愛情の深さに柚姫が瞳を潤ませると、トワは何を思ったのか、急に身体を起こして柚姫から離れた。
「トワ……?」
突然放り出され、どうしたのかと柚姫も起き上がる。ふしぎそうに首を捻ると、伸びてきた手に、半ば強引に正面を向かされた。
「ちょっと、何す……」
「大切なことを忘れていた」
「は? 大切なこと?」
「思えば、あいつに邪魔されて、まだだった」
「まだ?」
一体何のことを言っているのか。
「思い出さないか?」
きょとんとする柚姫の顎を、今度は慣れた手つきでぐいっと上向かせる。
あ、と声をあげたのも束の間、トワの金色の瞳が間近に迫り、柚姫はやっと状況を理解した。
「まだ思い出さないか?」
「え? もう、思い出――」
柚姫の言葉はトワの唇に遮られた。
「ん……」
吐息が重なり、一つになる。柚姫はそっと目を閉じた。
トワをもっと感じたい……
そう思って、トワの背中に腕をまわすと、優しく抱き締めてくれた――
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