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4.愛は時を忘れさせ、花火は行儀作法を忘れさせる

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 広い広い大理石の床でできた会場を3つの巨大なシャンデリアが煌々と照らしている。
 絶え間なく奏で続ける楽団の音楽に、同じく入れ代わり立ち代わりペアになって踊る着飾った男女。

 ここ王宮では、秋の実りを願う大規模な夜会の真っ最中だった。

「……くだらんな」

 光沢のある上着に己の地位を示す肩掛けを身に着けた青年は、会場の端にある即席のサロンの椅子に腰掛けたまま吐き捨てた。

 きらびやかで華やかな雰囲気にそぐわない表情で。

 青年の名は、フラン・ルゥ・カインザ・アーディチョークという。
 その名が示す通り、この国の王族であり、第二王子と呼ばれる者だった。

「まったく、夜会など愚の骨頂だ」

 フランはもう一度吐き捨てた。

 少し長い獅子色の前髪を鬱陶しげにかき上げながら。ちらりと見えた紺碧の瞳は不愉快そうに揺れている。

 フランにとって華やかな夜会にある、軽快な音楽も、美しく盛り付けられた料理も、蝶のように可愛らしい女性も、どれ一つとっても己の心を揺れ動かすものではない。何もかも興味が持てないのだ。

 彼が興味を持てるのは、この国の第一王子であるソーブワートただ一人だけ。

 そう。フランはソーブワートを心から愛している。兄としても、時期君主としても心酔していた。

 ソーブワートは、まだ王子という立場でありながら穏やかな物腰の中にも王たる威厳を持ち、視野が広く、聞く耳を持ち、良い提案であればすぐに取り入れる行動力を持っている。

 そんな完璧な第一王子だが、唯一欠点をあげるとするなら、その血の半分以上が汚れているということ。

 現国王の母親は、側室だった。そしてソーブワートの母親も側室だった。

 フランとソーブワートの母親は違う。フランの母は王妃だ。

 けれどフランは既に王位継承権を放棄している。ソーブワートを一生補佐すると宣言している。そしてそれは、王を始め、他の官僚たちも納得している。フランとソーブワートの王としての力量の差は歴然としていたから。

 けれど、ソーブワートが時期国王になるかどうかはまだ決定していない。

 なぜなら王家の純血を受け継ぐ人間がこの王都に存在しているから。それがアニスである。

 ただ放蕩を極めた父と、アバズレの代名詞となった母親の間から生まれたアニスが本当に王家の血を引いているかどうかは怪しい......ということになっている。

 血統主義にこだわる連中はどこの世界にでもいる。
 そして、例に漏れずアーディチョーク国でも、血筋を理由にソーブワートではなく、アニスを次期国王にと訴える派閥がある。

 心から兄を慕うフランにとってそれは我慢ができないことだった。

 フランは兄が血を吐くような努力を積み重ねてきたことを知っている。まるで汚れた血を払拭するかのように懸命に。

 そんな人知れず努力を重ねるソーブワートの為に、フランはこう考えた。

【純血者がこの世から消えてなくなれ、ソーブワートが王になれる】と。

 けれど、アニスが誰の子供なのか今一つはっきりしない。フランは兄を心酔してはいるが無益な殺生は好まない。

 だからアニスには護衛と称して見張りをつけている。それがティートであった。

 彼はアニスの護衛騎士に扮しているが、フランの側近でもある。決定的な証拠をつかむために、間者としてアニスの側にいるのだ。
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