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嘘を重ね続けた罪を精算する時
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自分の血を一滴も引いていない子供とて望んで受け入れるなら、それは我が子と胸を張って言える。「誰が何と言おうと、この子は私の子だ」と。
しかし望んでもおらず、しかもそれが夫の裏切りの結果で押し付けられた子供であれば、まったく別のものである。
しかしライリットはヘンリーを我が子とした。自分の心に嘘を付いた。
その頃、援助ばかりを求めていたライリットは、実家とは良い関係とは言えなかった。そして今年に入ってから体調もすぐれず、外出する時間さえ惜しい日々であったため、両親とは手紙のやり取りだけだった。
その状況を逆手にとってライリットは、両親に自分が産んだ子供だとヘンリーを紹介した。
さすがに両親は疑いの目を向けた。しかし「身ごもりにくい身体で妊娠をして、いつ子供が流れるかわからなかったから、ずっと黙っていた」とライリットは嘘を付いた。
悲しいことに父親はその言葉を鵜吞みにした。母はいつまでもライリットに疑いと憐みの目を向けた。
ライリットには兄がいた。名はウィルサムと言い、妹思いで正義感が強く、強い野心を持たずに、領地を安定して維持することに長けている聡く心優しい人間だった。
そんなウィルサムは、ライリットに向けはっきりと言葉にして問うた。「これは本当に、お前が産んだ子供なのか?」と。
続けて「もう無理はしなくていい。戻ってきなさい。あとは私がすべて片づける」とも言った。
近々結婚する予定だったウィルサムは、それと同時に家督を継ぐことが決まっていた。だから妹を守る力があると、はっきりと言葉にして言ってくれたのだ。
けれどもライリットは、兄の有難い申し出を断った。
ウィルサムは、妹は全力で守るが、偽りの子供は守らないとも言ったから。
あの時、全てを投げ捨てて実家に戻れば良かったとライリットは今でも後悔している。
しかし誰かの庇護なしでは生きていけない子供を見捨てることなんてできなかった。今にして思えば、孤児院に預けることもできた。しかし、一つの嘘を真実にしようとしていたライリットは、そこまで考えが及ばなかった。
両親に嘘を付いて、優しい兄も手を振り払い、ライリットに残ったのは、夫と名前も顔も知らない女との間にできた子供ヘンリーだけ。
いっそヘンリーに対して憎しみの感情を持てば、ライリットは楽になっただろう。
でも、できなかった。どういう経緯があって生まれてきたにせよ、子供には何の罪もない。それどころか、生まれて早々に消されるなんて、そんな残酷なことはあってはならない。
そんな正義感と庇護欲でライリットはヘンリーを我が子として育て始めた。
─── それは、想像以上に辛く苦しい日々だった。
しかし望んでもおらず、しかもそれが夫の裏切りの結果で押し付けられた子供であれば、まったく別のものである。
しかしライリットはヘンリーを我が子とした。自分の心に嘘を付いた。
その頃、援助ばかりを求めていたライリットは、実家とは良い関係とは言えなかった。そして今年に入ってから体調もすぐれず、外出する時間さえ惜しい日々であったため、両親とは手紙のやり取りだけだった。
その状況を逆手にとってライリットは、両親に自分が産んだ子供だとヘンリーを紹介した。
さすがに両親は疑いの目を向けた。しかし「身ごもりにくい身体で妊娠をして、いつ子供が流れるかわからなかったから、ずっと黙っていた」とライリットは嘘を付いた。
悲しいことに父親はその言葉を鵜吞みにした。母はいつまでもライリットに疑いと憐みの目を向けた。
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そんなウィルサムは、ライリットに向けはっきりと言葉にして問うた。「これは本当に、お前が産んだ子供なのか?」と。
続けて「もう無理はしなくていい。戻ってきなさい。あとは私がすべて片づける」とも言った。
近々結婚する予定だったウィルサムは、それと同時に家督を継ぐことが決まっていた。だから妹を守る力があると、はっきりと言葉にして言ってくれたのだ。
けれどもライリットは、兄の有難い申し出を断った。
ウィルサムは、妹は全力で守るが、偽りの子供は守らないとも言ったから。
あの時、全てを投げ捨てて実家に戻れば良かったとライリットは今でも後悔している。
しかし誰かの庇護なしでは生きていけない子供を見捨てることなんてできなかった。今にして思えば、孤児院に預けることもできた。しかし、一つの嘘を真実にしようとしていたライリットは、そこまで考えが及ばなかった。
両親に嘘を付いて、優しい兄も手を振り払い、ライリットに残ったのは、夫と名前も顔も知らない女との間にできた子供ヘンリーだけ。
いっそヘンリーに対して憎しみの感情を持てば、ライリットは楽になっただろう。
でも、できなかった。どういう経緯があって生まれてきたにせよ、子供には何の罪もない。それどころか、生まれて早々に消されるなんて、そんな残酷なことはあってはならない。
そんな正義感と庇護欲でライリットはヘンリーを我が子として育て始めた。
─── それは、想像以上に辛く苦しい日々だった。
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