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嘘を重ね続けた罪を精算する時

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 この年の始め、ライリットは体調を崩していた。

 一度は破綻の危機を逃れたニーゲラット家であるが、昨年末から領地で大規模な災害がおこり再び財政が傾き始めていた。

 夫は金策に走り、ライリットは留守にしがちな夫に代わり当主の仕事を行っていた。両親に頭を下げ援助を求め、人件費削減の為に使用人を解雇したりと……はっきり言ってしまえば、誰もが嫌がる汚れ仕事を代行していたのだ。

 それはかなりの精神的負担を伴うもので、ライリットは立っていることすらままならないほど疲れ切っていた。

 当然ながら春から賑わう社交シーズンにはどこの夜会にも参加することはできなかった。

 もちろん夏になっても、やつれた姿を見せてしまえば、いらぬ噂が立つことを恐れ邸宅にて、ただひたすら帳簿と請求書と領地からの嘆願書を処理する毎日だった。

 そんな中、夫から見知らぬ女が産んだ子供を押し付けられたのだ。 

 今日から自分の子供として育てろ、と。

 たくさんの感情が、言葉が、頭と心の中で暴れまくる。とにかく伝えたいのは、そんなことできるわけないとライリットは夫に訴えたかった。

 だが悔しいことに、はできるのだ。

 なぜならライリットは、今年は一切社交界に顔を出すことがなかった。

 年末から体調を崩し始めていたのを妊娠初期のつわりだったと偽り、産み月より少し早く生まれたとするなら、ライリットが産んだと公表しても辻褄が合う。

(まさかこの人は、そこまで計算していた?)

 そこまで考えた途端、これ以上考えはいけないと、もう人の自分が警鐘を鳴らす。

 けれど一度生まれたそれは、打ち消したくても消すことはできない。

 自分が両親に頭を下げ、長年仕えてくれた使用人達に詫びの言葉を紡ぎ紹介状を書いている間、この男が何をしていたのか─── 他の女の元に通っていたのだ。

 これを裏切りと言わず、何と言おう。

「旦那様、貴方は私が子を成すことができなくても良いと言ったではありませんか」

 ライリットは震える声で、夫であるケインを詰った。嫁いで初めて、夫に憎しみの目を向けた。

 なのにケインは悪びれることなく、あっさりと「ああ、言った」と認めた。しかし、すぐに言葉を続ける。

「私は他の女と子を成さないとは言っていない。そして君が後継ぎが産めない以上、そうするしか無い。それと、私を責めるのも結構だが、これは出来損ないの自分が招いた結果だということを忘れるな」
「……っ」

 いっそ居直った口調だったら、どんなに良かっただろう。逆ギレをされて怒鳴られても良かった。

 だがしかしケインは至って冷静だった。

 自分の取った行動は何一つ間違っていないという前提の下、ライリットを出来損ないの女だと烙印を押したのだ。
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