上 下
26 / 33
耐え難きを耐え 忍び難きを忍び……

21

しおりを挟む
「ねえミレニア質問なんだけれど……今、君は自分が無知な発言をしたことに気付いている?」
「……どういう意味でしょうか?」

 こめかみに鋭い痛みを覚えて顔を顰めた途端、ヘンリーから意味不明な質問を受け、ミレニアは咄嗟に質問を質問で返してしまった。

 途端に、ヘンリーは肩をすくめる。

「どういう意味って……それだよ、それ。今みたいなところだよ。はっきり言ってしまうと、考えなしに発言をするところ」
「……っ」

 テーブルには請求書と帳簿。それに彼が納得できないことも想定して、補足のメモまで並べてある。

(これだけ用意したことを実際に目にしておきながら、考えなしですって?)

 この人の目には、自分は一体どんなふうに映っているんだろうと、ミレニアは不安に思う。

 彼は社交界では名門侯爵家の当主でありながら、気さくで親しみやすいという評価を得ている。無論、それはミレニアが支えている部分が大きくあるからで。

「旦那様、私は一度だって考えなしに発言を」
「ああ、もう良いよミレニア。言い訳なんて聞きたくない。まずは自分の非を認めてくれ。話はそこからだ。あと、今回に限っては私も少し怒りを覚えている。愛する君とて言っていい事と悪いことがある。どんな不満があるのかはわからないが、まず、私に謝罪をするのが先だろう?」

 反論を言い訳と決めつけられ、言葉を選んで要求すれば一方的な怒りをぶつけられる。

 そんな状態でミレニアが謝ることなどできるわけがない。

 しかしヘンリーは、自分の妻がなぜ謝らないのかを考えるわけでもなく、心から傷付いた顔をした。

「私はね、自分で言うのもおかしいかもしれないが、君を愛している。そしてそれをちゃんと行動で表している。君に不自由することない生活を与え、快適な空間を作ってあげているし、子供との触れ合う時間だって与えている。それに私の友人たちは、子供を産んだ妻を女として見ていない。でも、私は変わらず君を愛している。それなのに君は、何?底辺貴族の生活を私に押し付け、私の仕事の重要さを理解しようともしない。ねえミレニア、私たちはそれでも夫婦って言えるのかい?」

 屈みこんで自分を見つめるヘンリーに向け、ミレニアは本音を口にした。

「私たちは夫婦ではありません」 

 きっぱりと、ありったけ意思を込めてミレニアはヘンリーに訴えた。本気で気づいて欲しかった。

 なのにヘンリーは、悲痛な訴えを耳にしても破顔するだけだった。

「ああ、良かった。ミレニア……君はこの私だけが我慢を強いられている現実は、理解できているようだね。安心したよ。これならまだ再教育できそうだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

虐げられた庶子の私が現状の不満をぶつけたら父は○○、王太子は求婚者になった

あとさん♪
恋愛
踊り子の娘を蔑んだ翌朝、ジベティヌス公爵一家は一人を残して皆殺しになった。 生き残ったのは件の踊り子の娘。庶子である三女フローラ。 彼女はことの元凶となった父親という名のクズに一目会いたかった。会って文句を言いたかった。 なぜ自分が半分とはいえ血の繋がった異母姉たちに蔑まれなければならないのか、溜まった不満をぶつけた。 「わたくしを下賤の血をひくと蔑みますが、そもそも殿方がもよおさねばこんな事態にならないのではなくて?」 愛する女の産んだ愛娘の本心を知った公爵は激昂し、愛刀を振るう。 事件後、生き残ったフローラと会った王太子は彼女の美しさに心奪われ、空いた婚約者の座に据えようと思いつく。 だが彼女を「王太子」の妃に出来ない理由が発覚した。おぞましい公爵家内での虐待を…… それでも王太子は彼女を手に入れたかったが、フローラ自身は…… 「考えて、ヤン! 撤収するわよっ」 ※冒頭、殺人の模様があります。サスペンスです。残酷描写があります。苦手な人はブラバ推奨。 ※途中にもムナクソ事件が発覚します。この時点でブラバするとムナクソなままですが終盤まで読むと納得するかと。 ※設定はゆるんゆるん ※現実世界に似たような状況がありますが、拙作の中では忠実な再現はしていません。なんちゃって異世界だとご了承ください。 ※全話、執筆済。完結確約。 ※このお話は小説家になろうにも掲載してます。

皇帝から離縁されたら、他国の王子からすぐに求婚されました

もぐすけ
恋愛
 私はこの時代の女性には珍しく政治好きだ。皇后となったので、陛下の政策に口を出していたら、うるさがられて離縁された。でも、こんな愚鈍な男、こちらから願い下げだわ。いつもお花畑頭の側室を側に置いて、頭に来てたから、渡りに船だったわ。  そして、夢にまで見たスローライフの始まりかと思いきや、いろいろと騒がしい日々が続き、最後には隣国の王子が求婚に来た。  理由を聞いているうちに、自分の国がかなりまずい状況であることがわかり、とりあえず、隣国に旅行に行くことにしたのだが……

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

【完結】婚約解消、致しましょう。

❄️冬は つとめて
恋愛
政略的婚約を、二人は解消する。

妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…

病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜

白川
恋愛
病弱に生まれてきたことで数多くのことを諦めてきたアイリスは、無慈悲と噂される騎士イザークの元に政略結婚で嫁ぐこととなる。 たとえ私のことを愛してくださらなくても、この世に生まれたのだから生き抜くのよ────。 そう意気込んで嫁いだが、果たして本当のイザークは…? 傷ついた不器用な二人がすれ違いながらも恋をして、溺愛されるまでのお話。 *少しでも気に入ってくださった方、登録やいいね等してくださるととっても嬉しいです♪*

夫で王子の彼には想い人がいるようですので、私は失礼します

四季
恋愛
十五の頃に特別な力を持っていると告げられた平凡な女性のロテ・フレールは、王子と結婚することとなったのだけれど……。

処理中です...