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耐え難きを耐え 忍び難きを忍び……
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【地上に迷い込んでしまった美しい妖精よ。どうか月に帰らず、私の元に留まっておくれ───】
(……なに、これ)
ペラリと便箋を開いた途端に飛び込んできたポエムにすらなっていない文章に、ミレニアは思わずその手紙を暖炉の中に放り込んだ。
そしてメラメラと燃えて、一瞬で灰となったそれを見て「あっ」と小さく声を上げた。
「しまった……これ私宛の手紙じゃなかったかも……」
ミレニアは人間の父と母の間から生まれたれっきとしたした人間だ。そして帰る場所はここサージ家だ。月に帰る予定は来世だって無い。
とどのつまり、お届けミスということ。そうに違いない。
しかし妖精宛の手紙をうっかり灰にしてしまったことはさすがにマズい。
(……どうしよう)
ミレニアは青ざめた。だって差出人はヘンリー・ニーゲラッド。貴族社会から距離を置いているミレニアとて知っている侯爵家の嫡男様だ。
そんな名門貴族のお手紙を灰にしてしまった。……かなり、マズイ。
しかし燃やしてしまったものは元には戻らない。こそっと自分が手紙を書き直すという手も一瞬考えたが、残念ながら1行しか読んでないから複製は不可能だ。
「……ねえ、ハルマン」
「なんでしょう、お嬢様」
ミレニアは長年我が家を支えてくれている執事のハルマンにそっと視線を向ける。
ちなみに執事はずっとミレニアの傍にいた。そして手紙と花束を受け取ったのは、他ならぬ彼である。
「悪いけど、今のこと見なかったことにしてもらえるかしら?あと花束は……そうね、その辺に埋めてちょうだい。薪の足しにしてもらっても良いわ。とにかくこの世から消えてもらえるならそれで……。ああでも、あなたが欲しければ是非とも受け取って」
「申し訳ございませんが、わたくしの趣味ではありませんので辞退させていただきます」
「そうね。ハルマンの趣味がまともで良かったわ。じゃあ、悪いけどお父様にもお母様にも内緒で……」
「かしこまりました。この件につきましては、このハルマン、墓場まで持って行く所存でございます。では早速、処分させていただきます」
花束を抱えて慇懃に頭を下げるハルマンに、ミレニアはほっと胸をなでおろす。
侯爵家の嫡男様には大変申し訳ないけれど、この手紙と花束は妖精様にお届けするためにお焚き上げさせていただいたということにする。
(……それにしても)
ミレニアは一人になった部屋で、しみじみと思う。
「なんて趣味が悪いのかしら」
紫色のライラックと深紅の薔薇の花束なんて、生まれて初めて見た。
一つ一つは確かに奇麗な花だ。しかし色の取り合せが悪いのに加え、自己主張が強い花同士を混ぜ合わせれば、なんかもう花同士がガチの喧嘩をしているようで見ているものを不安な気持ちにさせる。
あと、人間ではない妖精様の趣味趣向は存じ上げないが、ミレニアはこんなものを貰う妖精様は正直泣きたい気持ちになるだろうと思った。
しかし、そんなことを考えたのは一瞬のこと。
お届けミスで受け取ってしまった悪趣味な手紙も花束も今回限りのこと。詮索するような下世話なことは自分の趣味じゃない。
そう思って、そう結論付けて、ミレニアはこの一件を頭の中で消去した。
余談であるが、紫色のライラックの花言葉は「恋の芽生え」と「初恋」。
また深紅の薔薇の花言葉は「情熱」「愛情」そして「貴方を愛します」。
そんな受け取る側のことなど一切気にせず己の気持ちだけを前面に押し出した花束が、本気で自分宛てのものだったとミレニアが気付くのはもう少し後のこと。
(……なに、これ)
ペラリと便箋を開いた途端に飛び込んできたポエムにすらなっていない文章に、ミレニアは思わずその手紙を暖炉の中に放り込んだ。
そしてメラメラと燃えて、一瞬で灰となったそれを見て「あっ」と小さく声を上げた。
「しまった……これ私宛の手紙じゃなかったかも……」
ミレニアは人間の父と母の間から生まれたれっきとしたした人間だ。そして帰る場所はここサージ家だ。月に帰る予定は来世だって無い。
とどのつまり、お届けミスということ。そうに違いない。
しかし妖精宛の手紙をうっかり灰にしてしまったことはさすがにマズい。
(……どうしよう)
ミレニアは青ざめた。だって差出人はヘンリー・ニーゲラッド。貴族社会から距離を置いているミレニアとて知っている侯爵家の嫡男様だ。
そんな名門貴族のお手紙を灰にしてしまった。……かなり、マズイ。
しかし燃やしてしまったものは元には戻らない。こそっと自分が手紙を書き直すという手も一瞬考えたが、残念ながら1行しか読んでないから複製は不可能だ。
「……ねえ、ハルマン」
「なんでしょう、お嬢様」
ミレニアは長年我が家を支えてくれている執事のハルマンにそっと視線を向ける。
ちなみに執事はずっとミレニアの傍にいた。そして手紙と花束を受け取ったのは、他ならぬ彼である。
「悪いけど、今のこと見なかったことにしてもらえるかしら?あと花束は……そうね、その辺に埋めてちょうだい。薪の足しにしてもらっても良いわ。とにかくこの世から消えてもらえるならそれで……。ああでも、あなたが欲しければ是非とも受け取って」
「申し訳ございませんが、わたくしの趣味ではありませんので辞退させていただきます」
「そうね。ハルマンの趣味がまともで良かったわ。じゃあ、悪いけどお父様にもお母様にも内緒で……」
「かしこまりました。この件につきましては、このハルマン、墓場まで持って行く所存でございます。では早速、処分させていただきます」
花束を抱えて慇懃に頭を下げるハルマンに、ミレニアはほっと胸をなでおろす。
侯爵家の嫡男様には大変申し訳ないけれど、この手紙と花束は妖精様にお届けするためにお焚き上げさせていただいたということにする。
(……それにしても)
ミレニアは一人になった部屋で、しみじみと思う。
「なんて趣味が悪いのかしら」
紫色のライラックと深紅の薔薇の花束なんて、生まれて初めて見た。
一つ一つは確かに奇麗な花だ。しかし色の取り合せが悪いのに加え、自己主張が強い花同士を混ぜ合わせれば、なんかもう花同士がガチの喧嘩をしているようで見ているものを不安な気持ちにさせる。
あと、人間ではない妖精様の趣味趣向は存じ上げないが、ミレニアはこんなものを貰う妖精様は正直泣きたい気持ちになるだろうと思った。
しかし、そんなことを考えたのは一瞬のこと。
お届けミスで受け取ってしまった悪趣味な手紙も花束も今回限りのこと。詮索するような下世話なことは自分の趣味じゃない。
そう思って、そう結論付けて、ミレニアはこの一件を頭の中で消去した。
余談であるが、紫色のライラックの花言葉は「恋の芽生え」と「初恋」。
また深紅の薔薇の花言葉は「情熱」「愛情」そして「貴方を愛します」。
そんな受け取る側のことなど一切気にせず己の気持ちだけを前面に押し出した花束が、本気で自分宛てのものだったとミレニアが気付くのはもう少し後のこと。
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