6 / 15
6
しおりを挟む
そんなこんなでルグ領での生活が始まった。
ルグ領の主な収入源は、岩山で採取できる鉱石。なので領民のほとんどが鉱山で働き、リヒタスは責任者として書類に埋もれる傍ら、定期的に採石場に顔を出す。
ちなみに鉱夫は血の気が多くて、言葉遣いも乱暴だ。鉱夫を支える女性は、もっと気性が荒い。
王都という温室でぬくぬく育ったフェルベラとしては、さぞ住みにくい地だろうと周りの人間は相当心配した。
けれどそれは杞憂に終わり、フェルベラはあっという間にルグ領に馴染んだ。
「一言で表すなら快適~。もう一言付け足すなら超快適~。ここはルグ領、最後の楽園~らららのら~」
変な節を付けて歌うフェルベラの両手には、巨大な匙が握られている。
ここは鉱山の麓にある休憩所。鉱夫達は毎日ここで、女性達が頑張って作った賄い飯を食べる。
ルグ領での生活が始まり、早二ヶ月。フェルベラは休憩所で働く女性達に混ざって、賄い飯を作るのが日課となっていた。
もちろんリヒタスに命じられたからじゃない。自主的にそうしている。だってもう箱入り娘は卒業したから。
幸いダチョウ女のエピソードは良い方向に受け取ってもらえ、領民たちはフェルベラのことを都会育ちの鼻持ちならない小娘ではなく、やる時はやるデキる女と評価してくれている。大変有難い。
……という温かい領民と、あれから元婚約者のことに触れないでいてくる優しい領主のために、フェルベラは何かできることはないかと考えた結果、こうして鉱山の休憩所で賄い飯を作る手伝いをしている。
ただ料理などこれまでやったことがないフェルベラにできることは、大鍋に入ったスープを焦がさぬようかき混ぜることだけ。
ちょっと切ない役だけど、それでもフェルベラは毎日汗をかきながら与えられた仕事を一生懸命頑張っている。
さて只今の時刻は昼食10分前。これから厨房は、底なしの胃袋を持つ鉱夫を相手にするため戦場と化す。
フェルベラは更に気合を入れて、鍋の中でぐつぐつ煮だっているスープをぐるんぐるんかき混ぜていた、が。
「フェルベラさまぁ~、なんか領主さまがお呼びですよぉ。急ぎお屋敷に戻って来て下さぁ~い!!」
「えー」
窓から顔を出してきたリヒタスの護衛騎士からそう叫ばれてもフェルベラは、はいそうですかと頷けない。
だって今日に限ってスープは具だくさんで、とろみがあるからかき混ぜる手を止めるとすぐに鍋底が焦げ付いてしまう。
でもフェルベラがオロオロとしたのは一瞬で、近くにいたご婦人にでっかい匙を取り上げられてしまった。
「フェルさま、こっちは良いから!若様のところに行っておあげっ」
なおもフェルベラが「いやでも」と迷うそぶりをみせれば、今度はもう一人のご婦人が「さっさとお行き!」と背中をバンッと叩く。
結局、フェルベラは、追い出されるように護衛騎士と共に領主のお屋敷へと向かった。
ルグ領の主な収入源は、岩山で採取できる鉱石。なので領民のほとんどが鉱山で働き、リヒタスは責任者として書類に埋もれる傍ら、定期的に採石場に顔を出す。
ちなみに鉱夫は血の気が多くて、言葉遣いも乱暴だ。鉱夫を支える女性は、もっと気性が荒い。
王都という温室でぬくぬく育ったフェルベラとしては、さぞ住みにくい地だろうと周りの人間は相当心配した。
けれどそれは杞憂に終わり、フェルベラはあっという間にルグ領に馴染んだ。
「一言で表すなら快適~。もう一言付け足すなら超快適~。ここはルグ領、最後の楽園~らららのら~」
変な節を付けて歌うフェルベラの両手には、巨大な匙が握られている。
ここは鉱山の麓にある休憩所。鉱夫達は毎日ここで、女性達が頑張って作った賄い飯を食べる。
ルグ領での生活が始まり、早二ヶ月。フェルベラは休憩所で働く女性達に混ざって、賄い飯を作るのが日課となっていた。
もちろんリヒタスに命じられたからじゃない。自主的にそうしている。だってもう箱入り娘は卒業したから。
幸いダチョウ女のエピソードは良い方向に受け取ってもらえ、領民たちはフェルベラのことを都会育ちの鼻持ちならない小娘ではなく、やる時はやるデキる女と評価してくれている。大変有難い。
……という温かい領民と、あれから元婚約者のことに触れないでいてくる優しい領主のために、フェルベラは何かできることはないかと考えた結果、こうして鉱山の休憩所で賄い飯を作る手伝いをしている。
ただ料理などこれまでやったことがないフェルベラにできることは、大鍋に入ったスープを焦がさぬようかき混ぜることだけ。
ちょっと切ない役だけど、それでもフェルベラは毎日汗をかきながら与えられた仕事を一生懸命頑張っている。
さて只今の時刻は昼食10分前。これから厨房は、底なしの胃袋を持つ鉱夫を相手にするため戦場と化す。
フェルベラは更に気合を入れて、鍋の中でぐつぐつ煮だっているスープをぐるんぐるんかき混ぜていた、が。
「フェルベラさまぁ~、なんか領主さまがお呼びですよぉ。急ぎお屋敷に戻って来て下さぁ~い!!」
「えー」
窓から顔を出してきたリヒタスの護衛騎士からそう叫ばれてもフェルベラは、はいそうですかと頷けない。
だって今日に限ってスープは具だくさんで、とろみがあるからかき混ぜる手を止めるとすぐに鍋底が焦げ付いてしまう。
でもフェルベラがオロオロとしたのは一瞬で、近くにいたご婦人にでっかい匙を取り上げられてしまった。
「フェルさま、こっちは良いから!若様のところに行っておあげっ」
なおもフェルベラが「いやでも」と迷うそぶりをみせれば、今度はもう一人のご婦人が「さっさとお行き!」と背中をバンッと叩く。
結局、フェルベラは、追い出されるように護衛騎士と共に領主のお屋敷へと向かった。
61
お気に入りに追加
2,822
あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました
日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」
公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。
それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。
そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。
※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?
水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」
子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。
彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。
しかし彼女には、『とある噂』があった。
いい噂ではなく、悪い噂である。
そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。
彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。
これで責任は果たしました。
だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・

婚約者は…やはり愚かであった
しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。
素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。
そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな?
結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる