二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
3 / 15

3

しおりを挟む
 伯爵家の長女が婚約を破棄された腹いせに公爵家嫡男を回し蹴りしたーーこれは家門の存続に関わる問題だ。

 妙齢の淑女が、貴族青年の背中をピンヒールで踏み付けたーーこれもまた親の教育を疑われる問題行動である。

 そんなこんなでフェルベラは両親から狂犬認定され私室で監禁されること3ヶ月。

 やっと監禁を解かれたと思ったら、今度は最果ての地を治める領主の元に嫁がされてしまった。しかも嫁ぐ相手は、妻帯者。噂によると、全身毛むくじゃらの雪男のような容姿らしい。

 そんな人間の枠からはみ出た相手の愛人になるため、フェルベラはルグ領に向かう。

 ま、体の良い島流しである。

 しかしフェルベラはこうなることなど覚悟の上でロジャードに蹴りを入れたのだ。島流しという処遇に不満など無い。

 それにフェルベラが嫁ぐ最果ての地は、国境に面した剥き出しの岩山しかないルグ領。都会の噂話など届いていないはず。

 不幸だと思えば、気持ちはとことん暗くなる。

 なら生まれ変わったつもりで心機一転、この地でのびのびと過ごさせてもらう心づもりである。

 願わくばルグ領の領主が飽き性でありますように。自分への興味は秒で消え失せていただけますように。

 そんなささやかな願いを胸にルグ領に足を踏み入れたフェルベラだが、現実は思い通りにはいかなかった。





「ーー......雪男じゃない」

 出迎えてくれた領主を見た途端、フェルベラは思わず呟いてしまった。

 対して雪男ではない領主も、フェルベラと同じように目を丸くする。

「ダチョウじゃない」

 彼のたった一言で、自分の親が彼に何を伝えたのか大方見当は付いた。

 だがまぁ自分だって、まあまあ失礼なことを口に出してしまった手前、そこに文句をつける権利は無い。それに、ダチョウよろしく元婚約者にキックをかましたのは事実である。

 などと殊勝なことを思ってしまうのは、フェルベラがやっぱ謙虚に生きていこうと思い直したからではない。

 目の前にいる青年が雪男とは真逆の容姿だったからだ。

 大聖堂に描かれている神の御使いのようなプラチナブロンドの髪に若葉色の瞳。背はそれなりに高いけれど、ドレス着せたらスレンダーな美少女になれちゃうくらいの華奢な体型。

 ま、非の打ち所が無い美青年である。

(一体全体、これのどこか雪男なのか)

 噂というのは本当にあてにならないことを、フェルベラは身をもって知った。

 きっと領主も同じことを思っているのだろう。まじまじと自分を見つめたかと思えば、隣に立っている執事らしき人物に何やら耳打ちをしている。おそらく「あれ?ちょっと噂と違くね?」という内容だろう。

 その気持ちよくわかる。自分だって、誰かとこの驚きを共有したい。

 ……と雪がちらつく中、フェルベラはそんなことを思いつつ、領主の邸宅に足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました

日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」  公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。  それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。  そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。  ※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

婚約者は…やはり愚かであった

しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。 素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。 そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな? 結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……

三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」  ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。  何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。  えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。  正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。  どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?

処理中です...