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伯爵家の長女が婚約を破棄された腹いせに公爵家嫡男を回し蹴りしたーーこれは家門の存続に関わる問題だ。
妙齢の淑女が、貴族青年の背中をピンヒールで踏み付けたーーこれもまた親の教育を疑われる問題行動である。
そんなこんなでフェルベラは両親から狂犬認定され私室で監禁されること3ヶ月。
やっと監禁を解かれたと思ったら、今度は最果ての地を治める領主の元に嫁がされてしまった。しかも嫁ぐ相手は、妻帯者。噂によると、全身毛むくじゃらの雪男のような容姿らしい。
そんな人間の枠からはみ出た相手の愛人になるため、フェルベラはルグ領に向かう。
ま、体の良い島流しである。
しかしフェルベラはこうなることなど覚悟の上でロジャードに蹴りを入れたのだ。島流しという処遇に不満など無い。
それにフェルベラが嫁ぐ最果ての地は、国境に面した剥き出しの岩山しかないルグ領。都会の噂話など届いていないはず。
不幸だと思えば、気持ちはとことん暗くなる。
なら生まれ変わったつもりで心機一転、この地でのびのびと過ごさせてもらう心づもりである。
願わくばルグ領の領主が飽き性でありますように。自分への興味は秒で消え失せていただけますように。
そんなささやかな願いを胸にルグ領に足を踏み入れたフェルベラだが、現実は思い通りにはいかなかった。
「ーー......雪男じゃない」
出迎えてくれた領主を見た途端、フェルベラは思わず呟いてしまった。
対して雪男ではない領主も、フェルベラと同じように目を丸くする。
「ダチョウじゃない」
彼のたった一言で、自分の親が彼に何を伝えたのか大方見当は付いた。
だがまぁ自分だって、まあまあ失礼なことを口に出してしまった手前、そこに文句をつける権利は無い。それに、ダチョウよろしく元婚約者にキックをかましたのは事実である。
などと殊勝なことを思ってしまうのは、フェルベラがやっぱ謙虚に生きていこうと思い直したからではない。
目の前にいる青年が雪男とは真逆の容姿だったからだ。
大聖堂に描かれている神の御使いのようなプラチナブロンドの髪に若葉色の瞳。背はそれなりに高いけれど、ドレス着せたらスレンダーな美少女になれちゃうくらいの華奢な体型。
ま、非の打ち所が無い美青年である。
(一体全体、これのどこか雪男なのか)
噂というのは本当にあてにならないことを、フェルベラは身をもって知った。
きっと領主も同じことを思っているのだろう。まじまじと自分を見つめたかと思えば、隣に立っている執事らしき人物に何やら耳打ちをしている。おそらく「あれ?ちょっと噂と違くね?」という内容だろう。
その気持ちよくわかる。自分だって、誰かとこの驚きを共有したい。
……と雪がちらつく中、フェルベラはそんなことを思いつつ、領主の邸宅に足を踏み入れた。
妙齢の淑女が、貴族青年の背中をピンヒールで踏み付けたーーこれもまた親の教育を疑われる問題行動である。
そんなこんなでフェルベラは両親から狂犬認定され私室で監禁されること3ヶ月。
やっと監禁を解かれたと思ったら、今度は最果ての地を治める領主の元に嫁がされてしまった。しかも嫁ぐ相手は、妻帯者。噂によると、全身毛むくじゃらの雪男のような容姿らしい。
そんな人間の枠からはみ出た相手の愛人になるため、フェルベラはルグ領に向かう。
ま、体の良い島流しである。
しかしフェルベラはこうなることなど覚悟の上でロジャードに蹴りを入れたのだ。島流しという処遇に不満など無い。
それにフェルベラが嫁ぐ最果ての地は、国境に面した剥き出しの岩山しかないルグ領。都会の噂話など届いていないはず。
不幸だと思えば、気持ちはとことん暗くなる。
なら生まれ変わったつもりで心機一転、この地でのびのびと過ごさせてもらう心づもりである。
願わくばルグ領の領主が飽き性でありますように。自分への興味は秒で消え失せていただけますように。
そんなささやかな願いを胸にルグ領に足を踏み入れたフェルベラだが、現実は思い通りにはいかなかった。
「ーー......雪男じゃない」
出迎えてくれた領主を見た途端、フェルベラは思わず呟いてしまった。
対して雪男ではない領主も、フェルベラと同じように目を丸くする。
「ダチョウじゃない」
彼のたった一言で、自分の親が彼に何を伝えたのか大方見当は付いた。
だがまぁ自分だって、まあまあ失礼なことを口に出してしまった手前、そこに文句をつける権利は無い。それに、ダチョウよろしく元婚約者にキックをかましたのは事実である。
などと殊勝なことを思ってしまうのは、フェルベラがやっぱ謙虚に生きていこうと思い直したからではない。
目の前にいる青年が雪男とは真逆の容姿だったからだ。
大聖堂に描かれている神の御使いのようなプラチナブロンドの髪に若葉色の瞳。背はそれなりに高いけれど、ドレス着せたらスレンダーな美少女になれちゃうくらいの華奢な体型。
ま、非の打ち所が無い美青年である。
(一体全体、これのどこか雪男なのか)
噂というのは本当にあてにならないことを、フェルベラは身をもって知った。
きっと領主も同じことを思っているのだろう。まじまじと自分を見つめたかと思えば、隣に立っている執事らしき人物に何やら耳打ちをしている。おそらく「あれ?ちょっと噂と違くね?」という内容だろう。
その気持ちよくわかる。自分だって、誰かとこの驚きを共有したい。
……と雪がちらつく中、フェルベラはそんなことを思いつつ、領主の邸宅に足を踏み入れた。
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