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閑話② 医者と患者。または兄と弟

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 営みの最中に過呼吸を起こした新妻を前にして、ルブランはそれ以上、情事を進めることができなかった。

 幸いルブランは過呼吸の際の対処法を身に付けていたので、大事にはならなかった。そしてミザベラが無事、妻としての務めを終えたと偽装するため、自らの腕を刃物で傷付けシーツに血を付着させた。

 その結果、ミザベラは誰にも後ろ指を差されることなく、王妃としての日々を過ごしている。

 しかし、表面上は平穏な時間が流れていても、夫婦二人っきりとなるとそれは別の話になる。

 ミザベラは、初夜をきっかけにルブランに対して畏怖の念を持ってしまった。

 そのため一定の距離を保った会話は問題なくできるが、少しでもルブランが触れようとすると身体が強張ってしまうのだ。

 無論、ミザベラとてそれは本意ではない。ルブランに向けての気持ちだって変わっていない。

 でも一度覚えてしまった恐怖心は心に刻まれてしまい、どうしても初夜のやり直しができないのだ。……二人とも、切にやり直しを望んでいるというのに。




「───……長い時間共に生きると決めたんだ。あまり事を急がない方が良い。まぁ、うるさい連中のことはコバエだと思って聞き流せ」

 ポンっとグリジットはルブランの頭に手を置いてそう言った。

「僕は未熟者です。……王としても、夫としても」
「そうでもない。お前は、よくやっている。足りないものはこれから全部補える。焦るな」

 わしゃわしゃと”取ってこい”が上手にできた犬を褒めるかのようにグリジットは、ルブランの頭を撫でる。ほんの少し胸にある罪悪感を誤魔化すように。

 あの時─── 前国王陛下が急死した直後、王宮内は荒れに荒れていた。

 そんな中、グリジットが正妻の子が成人するまでという条件で玉座に就いた。それは担ぎ上げられたわけじゃない。自ら望んでやったこと。

 そう遠くない未来、半分しか血がつながっていない弟が成人して心穏やかに王政ができるように、不穏分子をできるだけ取り除こうと思って。

 でも玉座を引き渡した後、引き留めるルブランの手を振り払って城を去ってしまったことも事実だ。

 その選択は間違っていないと思っている。最善の方法だったのだとグリジットは胸を張って言える。

 しかし、今にも泣きそうな弟を目にしてしまうと、どうにもこうにも遣る瀬無い。

(……といっても、まさか初夜であんなことが起こるなんて誰が想像できるか)

 さすがにそれは声に出すことはしないし、できない。ただ、弟が泣きそうな顔になりながらも、がっつり目は「何かよこせ」と訴えてる。

 そんなわけでグリジットは、予め用意しておいた紙袋をルブランに押し付けた。

「リラックス効果が強い茶だ。持っていけ」
「……アリガトウゴザイマス」

 棒読みで言ったルブランは、絵に描いたようながっかりした表情を浮かべていた。
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