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【夜の治験 初級編】 そうして始まるメイドとしての日々 

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『初日だからね、そんな無理難題をお願いしたりはしないよ。楽な格好で、楽な気持ちでおいで』

 夕食の後、グリジットはそう言って仕事部屋に消えていった。

 それからファルナはずっと頭を悩ませている。

(……楽な格好って……何を着て行けば良いんだろう)

 簡素な部屋の大部分を占めているベッドには、グリジットから与えられた服が並べられている。

 まるでデートに行く前日のような光景だが、ファルナの表情はウキウキするどころか緊張のせいで紙より白い。

「……まぁ、これが無難か」

 ベッドに並べた服をさんざん見まわして、ファルアは一着のワンピースを手に取った。

 それは柔らかい木綿素材のワンピース。ゆったりとしたデザインは、お洒落着というより部屋着に近いそれ。

 これならグリジットがリクエストした楽な格好の部類に入る。まぁ、入るのだが……

(一応仕事として呼ばれたのに、部屋着はやっぱ失礼かな。なら、何を着よう……ああ、こんなことならもっと具体的に聞いておけば良かった)

 ファルナは一度手にしたワンピースを却下して、ため息を吐いた。と同時に小さくくしゃみをする。

 夜のお薬の開発のお手伝いということは必然的に身体に触れられるかもしれない。そんな懸念から、実はついさっき湯あみをしたのだ。

 もちろん、別に触れられることを期待しているわけじゃない。万が一に備えて、だ。

 そんなわけで、現在ファルナは冷え込む夜半にシュミーズ一枚で部屋にいたりもする。正直寒い。そして、時計を見れば指定された時刻の5分前。

(ああっ、もう迷っている暇はない!!)

 ファルナはもう悩むことを放棄した。

 





 ─── トン、トン、トン。

「空いてるよ、入ってくれ」

 ノックをしたと同時に扉越しに声を掛けられ、ファルナはそぉーっと仕事部屋に入る。

 パチパチと暖炉の薪が弾ける音と、カサリと紙がこすれ合う音が部屋に響いている。グリジットは大きな執務机に着席して、何か書き物をしていた。

「……すまない、もうちょっとで終わるから。そこに座っていて」

 グリジットの手のひらが指示したのは、前回処女診断を受けたご立派な……そしてファルナにとっていわくつきの椅子だった。

(湯浴みしといて良かった……ん?良かった??)

 まだ何をされるかわからないのに、先走ったことを考えた自分に気付き、ファルナは頬を赤らめる。

 チラッとグリジットを見れば、幸いにも彼はもう自分に背を向けて書き物を再開していた。一先ず安堵の息が漏れる。

 ただ、この椅子に座るのは少々抵抗がある。

 だけれど話しかけるなというオーラを出すグリジットに向けて、不満を伝える方がもっと抵抗がある。

(……ま、先生の邪魔をするのは悪いから、座るしかないか)

 ようやっと仕事らしい仕事がきたのだ。

 そりゃあ、よりにもよってこれ?という気持ちは多大にあるし、不安もある。

 でも、どんなことをされても純潔は守られるのだから……とファルナは自分に言い聞かせ、グリジットの邪魔にならぬよう大人しく着席することを選んだ。
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