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終章

本日のお昼ごはん③

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 2トップの突然の大爆笑に美亜はポカンとしてしまう。

「あっははっ、いやー失敬。それにしても、すごいね、君。実のところ指宿殿が急に星野くんを社員にしろって電話で言ったときはびっくりしたけれど、二人を見ているとーー」
「ジジイ、黙れ」

 会長は美亜の目から見たら、好々爺でしかないが、課長にとっては違うのだろう。まるでウザいの代名詞である生徒指導の先生と会話をしているように、渋面を作っている。

 とはいえ課長の態度は、いつものことなのだろう。会長は気を悪くするどころか、更にニコニコして己の額をペチンと叩いた。 

「おっと、失礼失礼。年を取ると少々、お喋りになるもんでな。指宿殿、老いぼれの失言だと思って忘れてくれたまえ」
「はんっ、都合がいいな。一昨日、生涯現役って言ってなかったか?たしか錦のーー」
「指宿殿、息子の前でっ」
「安心しろ、ジジイ。その三件隣の店で息子も楽しんでたぞ」
「ちょ、それは指宿殿、内緒にって!!」
「恨むなら、お喋りなお前の父親を恨め」

 ソファにふんぞり返りながら会長と社長に冷や汗をかかせる課長を見て、美亜はこの三人の力関係を瞬時に理解した。

 しかし、そんなものは些末なこと。今、心を占めている感情はそれじゃない。

「課長......私......」
「これからはボランティアじゃないからな。しっかり働いてもらうぞ」

 言い終えたと同時に、大きな課長の手が美亜の頭に乗る。飼い犬のように頭を撫でられ、美亜は不覚にも視界が涙でぼやけてしまう。

 課長は怒ってなんかいなかった。まだ傍に居て良いと言ってくれた。大手企業の正社員になれた。自分が描くキラキラ女子に一歩近づいた。

 しかも正社員になれたのは、嘘つきと言われたありのままの自分が頑張った結果で……

「う……ううっ」
「お前なぁ、こんなことで泣くな」
「い……良いじゃないですか。だって、嬉しいんですもん」
「泣く程か嬉しいのか?」
「当たり前じゃないですか!」

 天下の天狐様は意味が分からないと首を捻る。でも、口元はしっかり弧を描いていて、それが更に涙をさそう。

 もう大号泣の2秒前。でも美亜は、ガチ泣きしたい衝動を無理矢理に押し込み、ぐいっと涙を手の甲で乱暴に目頭を拭うと勢い良く立ち上がった。

「あ、あの!!」
「は、はいぃーーー」
「な、なんだね!?」

 聞くに耐えない夜の街での暴露大会をし始めた会長と社長は、ぎょっとした顔で美亜を見上げた。

「私、一生懸命頑張ります!!」

 直角に腰を折った美亜に課長は満足そうに笑う。会長と社長も同じく破顔しーー昼休みを告げるチャイムが社長室に鳴り響いた。

「よし、じゃあ話は以上ということで、今日は指宿殿と二人で美味しいものを食べてきなさい」

 そう言って会長は上着の懐から財布を取り出し、万札を抜いてテーブルに置く。つづいて社長も。

「ありがとうございます。ごちそうになります」

 遠慮無く昼食代をいただいた美亜は、にっこり笑って課長に「行きましょう」と声をかける。

「ああ。……で、どこに行く?臨時収入が入ったんだ。派手に行こうか」

 立ち上がりながら老舗料亭の名を挙げる課長に、美亜は首を横に降る。

 向かう先は、もう決まっている。課長と自分の原点となった路地裏のお店だ。

 ただし注文するメニューは味噌煮込みうどんになんかさせない。きつねうどん大盛り二人前、これ一択だ。



◆◇◆◇おわり◇◆◇◆


 最後までお読みいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
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