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終章
本日のお昼ごはん②
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『んっもう!ここにいたんだー』
そう叫びながらこちらに近付いてくる綾乃は、ただ事ではない様子で。
「なになに?……ど、ど、どうしたん」
「いいから行くよ!」
ですか?と最後まで言わせてもらう時間すら与えられずに、美亜は綾乃に腕を引っ張られて営業企画課に連れ戻された。
「お待たせしました!星野さん連れてきました!」
「ありがとう長坂さん。ーーじゃあ星野さん、大至急社長室に行って!」
「はぁいーー??」
家出した子供みたいに営業企画課のフロアに連れ戻された途端、今度は目が合ったショートカットの女子社員に廊下に押し出された。
しかし美亜は、社長室なんか知らない。
「あ、あのっー、社長室ってどこですか!?」
「え、嘘!?知らないの??」
「すいませんっ、派遣社員なもんで」
「そっか。じゃあ、おいで」
面倒見の良い女子社員は、社長室まで案内してくれるつもりのようで、美亜の前を歩き出す。
「……あの、私、なんで社長室なんかに行かないといけないんでしょうか?」
「ごめん、わかんない。内線取ったの私じゃないから」
「そっすか」
美亜がおずおずと問い掛ければ、女子社員はそっけなく答える。
ただ振り返ったその目は「お前、一体何をしたんだ?」と、派遣社員の営業同様に訴えかけてくる。
ーーそんなもん、こっちが知りたいよ。
などと言えない美亜は、むぎゅっと口を閉じてエレベーターに乗る。ちなみに社長室は御最上階の一階下。
今日は無駄に行ったり来たりする日だなと、美亜は頭の隅でぼんやりと思った。
重役専用フロアの階に降りた美亜と女子社員は、足を止めずに社長室に向かう。
「じゃ、私はこれで。……星野さん、なんか良くわかんないけど頑張って!」
「は……はぁ」
最後に社長室の前で意味不明なエールを送った女子社員は、足早に去っていく。対して美亜は心臓がバクバクだ。
手のひらに浮かんだ汗をスカートの裾で拭いて、深呼吸を二回。それから重厚な扉をノックする。
入室を許可され深々とお辞儀をして入室すると、革張りのソファに腰かけるお偉いさんらしき男性二名とーー課長がいた。
「いやぁー悪かったね、仕事中に。ま、座って座って」
「星野さんって言ったっけ?そう緊張しないで。まぁ指宿殿の隣に座ってくれたまえ」
「……あ、は、はい」
社内報やたまにテレビでお見かけする男性二人はパールカンパニーの会長、矢部五郎とその息子であり社長の矢部幸三。そんな二人に気楽にと言われてもできるわけがない。
なのに、ガチガチに緊張する美亜を見て課長は笑う。
「久しぶりだな」
「はい」
普段通りの課長を見て、美亜はどんな顔をしていいのかわからない。ぎこちなく頷くとそのまま俯いてしまう。
そんな美亜に会長の矢部五郎は強引に着席させると、次いで、とんでもないことを言った。
「いやぁー、星野くん助かったよ、指宿殿のアシスタントを引き受けてくれて。これからも頑張ってくれたまえ」
「……は?」
「年内は、まぁ派遣契約が残っているから仕方ないけど、年明けからは正社員として指宿殿の秘書として頑張ってくれたまえ。ああ、そんな顔をしなくて大丈夫だよ。色々面倒なことはこっちでやっておくから」
「は.……い?」
「まぁ何にせよ、良かった良かった。これでわが社も安泰だ。これからよろしくたのむよ」
「……あのう」
演説よろしくまくしたてた会長と社長の言っている意味がわからず、美亜は恐る恐る挙手をした。
「私、今の今、営業から契約終了を告げられまして」
「ああ、そうだろうな。そうしなきゃ正社員になれないからな」
「......え、私クビになったんじゃ」
「なるか、馬鹿」
「いや馬鹿って......そんな......だって、課長は」
ーー私のこと嫌いになったんじゃないんですか??
うっかりそんな言葉を紡ぎそうになった美亜は慌てて口を閉じる。
興味津々にこちらを見ている会長と社長は、ここで「あっはっはっ」と大声で笑った。
そう叫びながらこちらに近付いてくる綾乃は、ただ事ではない様子で。
「なになに?……ど、ど、どうしたん」
「いいから行くよ!」
ですか?と最後まで言わせてもらう時間すら与えられずに、美亜は綾乃に腕を引っ張られて営業企画課に連れ戻された。
「お待たせしました!星野さん連れてきました!」
「ありがとう長坂さん。ーーじゃあ星野さん、大至急社長室に行って!」
「はぁいーー??」
家出した子供みたいに営業企画課のフロアに連れ戻された途端、今度は目が合ったショートカットの女子社員に廊下に押し出された。
しかし美亜は、社長室なんか知らない。
「あ、あのっー、社長室ってどこですか!?」
「え、嘘!?知らないの??」
「すいませんっ、派遣社員なもんで」
「そっか。じゃあ、おいで」
面倒見の良い女子社員は、社長室まで案内してくれるつもりのようで、美亜の前を歩き出す。
「……あの、私、なんで社長室なんかに行かないといけないんでしょうか?」
「ごめん、わかんない。内線取ったの私じゃないから」
「そっすか」
美亜がおずおずと問い掛ければ、女子社員はそっけなく答える。
ただ振り返ったその目は「お前、一体何をしたんだ?」と、派遣社員の営業同様に訴えかけてくる。
ーーそんなもん、こっちが知りたいよ。
などと言えない美亜は、むぎゅっと口を閉じてエレベーターに乗る。ちなみに社長室は御最上階の一階下。
今日は無駄に行ったり来たりする日だなと、美亜は頭の隅でぼんやりと思った。
重役専用フロアの階に降りた美亜と女子社員は、足を止めずに社長室に向かう。
「じゃ、私はこれで。……星野さん、なんか良くわかんないけど頑張って!」
「は……はぁ」
最後に社長室の前で意味不明なエールを送った女子社員は、足早に去っていく。対して美亜は心臓がバクバクだ。
手のひらに浮かんだ汗をスカートの裾で拭いて、深呼吸を二回。それから重厚な扉をノックする。
入室を許可され深々とお辞儀をして入室すると、革張りのソファに腰かけるお偉いさんらしき男性二名とーー課長がいた。
「いやぁー悪かったね、仕事中に。ま、座って座って」
「星野さんって言ったっけ?そう緊張しないで。まぁ指宿殿の隣に座ってくれたまえ」
「……あ、は、はい」
社内報やたまにテレビでお見かけする男性二人はパールカンパニーの会長、矢部五郎とその息子であり社長の矢部幸三。そんな二人に気楽にと言われてもできるわけがない。
なのに、ガチガチに緊張する美亜を見て課長は笑う。
「久しぶりだな」
「はい」
普段通りの課長を見て、美亜はどんな顔をしていいのかわからない。ぎこちなく頷くとそのまま俯いてしまう。
そんな美亜に会長の矢部五郎は強引に着席させると、次いで、とんでもないことを言った。
「いやぁー、星野くん助かったよ、指宿殿のアシスタントを引き受けてくれて。これからも頑張ってくれたまえ」
「……は?」
「年内は、まぁ派遣契約が残っているから仕方ないけど、年明けからは正社員として指宿殿の秘書として頑張ってくれたまえ。ああ、そんな顔をしなくて大丈夫だよ。色々面倒なことはこっちでやっておくから」
「は.……い?」
「まぁ何にせよ、良かった良かった。これでわが社も安泰だ。これからよろしくたのむよ」
「……あのう」
演説よろしくまくしたてた会長と社長の言っている意味がわからず、美亜は恐る恐る挙手をした。
「私、今の今、営業から契約終了を告げられまして」
「ああ、そうだろうな。そうしなきゃ正社員になれないからな」
「......え、私クビになったんじゃ」
「なるか、馬鹿」
「いや馬鹿って......そんな......だって、課長は」
ーー私のこと嫌いになったんじゃないんですか??
うっかりそんな言葉を紡ぎそうになった美亜は慌てて口を閉じる。
興味津々にこちらを見ている会長と社長は、ここで「あっはっはっ」と大声で笑った。
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