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終章

本日のお昼ごはん①

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「ーーんー、星野さんはずっと先方から高評価貰ってたから、こっちも一生懸命説得したんだけど、どうしても契約終了にするの一方通行で聞く耳を持ってくれなくってさ、残念だけど来年1月で終了ってことでお疲れ。……でさ、ここだけの話、星野さん何やったの?」

 派遣開始からずっと担当でいてくれる営業は、三十代半ばの温厚な性格の男性だ。

 ただ今日に限っては菩薩のような笑みを浮かべずに、キョロキョロと辺りを確認した後、ずいっと前のめりになって美亜に問うてきた。

「さぁ。私も寝耳に水のことで……わかりません」

 とぼけているのではなく、本当にわからない。

 だって月曜日と火曜日は課長は出張で、顔すら合わせることがなかった。もちろんスマホにも連絡なし。

 そして今日、水曜日になってやっと会えたと思ったら急に派遣会社の営業にミーティングルームに呼び出され、いきなり契約終了を告げられたのだ。

 意味がわからない。逆にこっちが教えて欲しいくらいだ。……いや、なんとなくわかっている。

「本当に思い当たることない?」
「えっと……ないです」

 美亜は、不思議そうに首を傾げる派遣会社の営業から視線を逸らす。

 営業は、その仕草をやましいことがあるのだと判断したのだろう。「若いんだから、間違いはある。けれど不倫は誰も幸せになれないよ」と真顔で忠告する。

 大変失礼なアドバイスに、美亜は食い気味に「してません」と強く否定する。ややたじろいだ営業だが、不倫説を捨てきれないようだ。

「まぁ、プライバシーがあるからあんまり深く突っ込むつもりはなけれど、とりあえず契約期間はあと一か月残ってるから、問題を起こさないようにしてね」
「はい」
「それと、有休消化は周りの迷惑にならない程度でお願いね」
「はい」
「失業保険とかの書類は契約終了後に自宅に送るから。ただその前に質問とかあったら気軽に連絡してね。こっちも紹介できる仕事があったら、連絡するから」
「はい。ありがとうございます」

 殊勝に頷く美亜に、営業はもう不倫ネタを語ることは無く面談は終了となった。


 ミーティングルームを出た美亜は、自分の席に戻らず最上階の休憩スペースに移動する。今の時刻は11時を少し回ったところ。がっつり勤務時間中であるため、閑散としていた。

 福利厚生で置かれている給茶機からお茶を淹れると、美亜は窓際の席に腰かけて空を見上げる。雲一つない晴天だ。

 泣きたいほど澄んだ青空を見上げて、美亜はこれからの身の振り方を考える。

 ひとまず会社都合で契約が終了するのだから失業保険はすぐに出るだろう。営業は違う仕事を紹介すると言ってくれた。

 だから落ち込むことはない。最悪、年末はゆっくり帰省して、年明けから仕事を探しても遅くはない。

 貯金だって少しはあるし、最悪兄に泣きつけばちょっとは助けてくれるだろう

 そう……冷静に考えれば、落ち込むことなんて何一つない。派遣社員が会社都合で切られるなんて良くあること。言い換えるなら、派遣なのだ。

 などと頭ではわかっているが、やはり課長のことを考えてしまう。

 今後顔を見たくないと思うほど、怒らせてしまったのか。東野は笑って大丈夫と言っていたが、それは他人事だから言えること。

 でも今後一切、彼の発言を信じることは無いだろう。

「あーあ……せめて一言謝りたかったなぁ」

 往生際悪く、心残りをつい呟いてしまう。

 ただここでぼんやりしていても埒が明かないのはわかっている。だから気持ちを切り替えて、席に戻ろうと腰を浮かせた瞬間ーー

「あ!星野さん見つけた!んっもう!ここにいたんだー」

 と、叫びつつ綾乃が息を切らして飛び込んできた。
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