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第六章
上杉謙信、マジ尊敬!②
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神使である東野は風葉と同様に女性関係において、少々やんちゃなところがある。
いや有り体に言えば、東野の方が節操がない。彼の主は子授けや安産などに大きな神徳を授ける伊奴姫神。
女神の使いだからなのかどうかはわからないが、東野は一晩限りのチャンスはどんなことがあっても絶対に逃さない。それがどんな相手であっても。
そんな犬より猿に近い彼だが、今は遣る瀬無い気持ちを持て余すかのように、ガシガシと頭を搔いた。セットされた髪が、あっという間にぼさぼさになる。
「俺さぁ、病院で起こる霊障は大矢が関係してるのかもって思って、大矢が参加する合コンに無理矢理参加したんだ。大矢が気に入った子にちょっかい出したらアイツの本性が見えるかな思って。まぁ……つまり最初は美亜ちゃんのこと別に好きじゃなかったんだよね」
「そのまま好きじゃないままでいれば良かったじゃないか」
課長が本音を隠すことなく伝えれば、東野は「いやまぁ、そのつもりだったんだけど」と頬を掻きながら言葉を続ける。
「お前と美亜ちゃんが、旧館の調査をしに来てくれたじゃん?あの時、美亜ちゃんが俺より懐中電灯を選んだ時さぁ、地味にショックを受けたわけよ」
「へぇ。俺だってお前より懐中電灯を取る」
「俺は、真面目に話しているだけなのに、なぜ傷付かないといけないんだ?」
「知るか」
「……ひど」
恨みがましい目で課長を見ていた東野だが、旧館調査のことを思い出しているのだろうか、次第に遠くを見るように目を細める。
「見た目はドンピシャで好みだったんだけど、俺は神使だからそういう感情は持たないと思ってたんだ。でもお前にばっかり懐く美亜ちゃんを見て、なんか物凄く嫌な気持ちになったんだ。……くそっ、俺……狐に嫉妬するなんてマジ最低。犬姫に呆れられるな、俺」
はぁーっと溜息を吐いた東野は、このまま沈没するかと思いきや、急に勢いよく顔を上げた。
「っていうか美亜ちゃんにお前が不利になるようなことを一言も言わなかった俺を褒めろよ、指宿!」
「は?」
なぜ俺がお前なんかにーーと言いたげな課長を見て、東野は憤慨する。
内緒で美亜の傍に狐火を置いていること。そのおかげで四六時中、美亜がどこにいるのか把握していること。
一昨日の事故物件で、美亜が帰った後に博の胸倉を掴んで「危ない目に合わせてんじゃねえよ!」と怒鳴りつけたこと。
生きた人間から肉体と魂を引き離す際には、神に等しい力を持つ存在の肉体的接触が必要になること。
本当は稀眼を持つ人間なんかに頼らなくても、余裕で夜の仕事をこなすことができること。
人と人の繋がりは、硬くてもろい。一つでも話せば、課長と美亜の間に亀裂が入ることを東野は知っていた。
ライバルを蹴落としたいなら、話すべきだった。
なのに東野はそうしなかった。己の矜持が許さなかったというのもあるし、美亜がこれ以上落ち込むのを見たくなかったのもある。
でも一番の理由は、長い年月共に過ごしている友人を裏切りたくなかったからなのだ。
いや有り体に言えば、東野の方が節操がない。彼の主は子授けや安産などに大きな神徳を授ける伊奴姫神。
女神の使いだからなのかどうかはわからないが、東野は一晩限りのチャンスはどんなことがあっても絶対に逃さない。それがどんな相手であっても。
そんな犬より猿に近い彼だが、今は遣る瀬無い気持ちを持て余すかのように、ガシガシと頭を搔いた。セットされた髪が、あっという間にぼさぼさになる。
「俺さぁ、病院で起こる霊障は大矢が関係してるのかもって思って、大矢が参加する合コンに無理矢理参加したんだ。大矢が気に入った子にちょっかい出したらアイツの本性が見えるかな思って。まぁ……つまり最初は美亜ちゃんのこと別に好きじゃなかったんだよね」
「そのまま好きじゃないままでいれば良かったじゃないか」
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「お前と美亜ちゃんが、旧館の調査をしに来てくれたじゃん?あの時、美亜ちゃんが俺より懐中電灯を選んだ時さぁ、地味にショックを受けたわけよ」
「へぇ。俺だってお前より懐中電灯を取る」
「俺は、真面目に話しているだけなのに、なぜ傷付かないといけないんだ?」
「知るか」
「……ひど」
恨みがましい目で課長を見ていた東野だが、旧館調査のことを思い出しているのだろうか、次第に遠くを見るように目を細める。
「見た目はドンピシャで好みだったんだけど、俺は神使だからそういう感情は持たないと思ってたんだ。でもお前にばっかり懐く美亜ちゃんを見て、なんか物凄く嫌な気持ちになったんだ。……くそっ、俺……狐に嫉妬するなんてマジ最低。犬姫に呆れられるな、俺」
はぁーっと溜息を吐いた東野は、このまま沈没するかと思いきや、急に勢いよく顔を上げた。
「っていうか美亜ちゃんにお前が不利になるようなことを一言も言わなかった俺を褒めろよ、指宿!」
「は?」
なぜ俺がお前なんかにーーと言いたげな課長を見て、東野は憤慨する。
内緒で美亜の傍に狐火を置いていること。そのおかげで四六時中、美亜がどこにいるのか把握していること。
一昨日の事故物件で、美亜が帰った後に博の胸倉を掴んで「危ない目に合わせてんじゃねえよ!」と怒鳴りつけたこと。
生きた人間から肉体と魂を引き離す際には、神に等しい力を持つ存在の肉体的接触が必要になること。
本当は稀眼を持つ人間なんかに頼らなくても、余裕で夜の仕事をこなすことができること。
人と人の繋がりは、硬くてもろい。一つでも話せば、課長と美亜の間に亀裂が入ることを東野は知っていた。
ライバルを蹴落としたいなら、話すべきだった。
なのに東野はそうしなかった。己の矜持が許さなかったというのもあるし、美亜がこれ以上落ち込むのを見たくなかったのもある。
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