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第五章

君と私の共通点③

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 肉体を失ってしまった正弘と僅かではあるが心を通わすことができた美亜であったが、肉体を持っている博とは相変わらず一方通行だ。

「俺には見えない。正弘はここには居ない」

 そう呟く博は、まるで自分に言い聞かせているよう。小さい子供が親の小言に両耳を塞いで喚いているようにすら見える。

 言い換えると、博はちょっとは正弘の気配に気付いている。でも認めたくないのだ。

 それは何で?どうして?

 博と正弘の間に何があったのか美亜は知らない。どうして自分と弟を引き合わせたかったのかもわからない。

 わかることと言えば、博と正弘が辛い別れをしたということと、今でも二人は互いを大切に思い合っているということ。

 ただその思い方がズレてしまっていて、片方が相手を見失ってしまって、もう片方は一方的に泣き叫んでいるという悲惨な状況だ。 

 恥ずかしい話、引きこもりだった自分は、喧嘩の仲裁なんてしたことない。人と人との懸け橋になったこともない。

 いつも自分のことで手一杯で、他人に心を砕く余裕なんてなかった。

 でもそんなのは言い訳だ。死に別れてしまった兄弟が、更に辛い別れを重ねて欲しくないなら体当たりでやるしかない。  

 すれ違ってしまった二人の気持ちを自分は何としても届けたい。届けなきゃいけない。

 美亜は身体を捻って、博と目を合わせた。

「正弘君は、お兄ちゃんのこと大好きだったんです」
「勝手なこと言うな。君になんて俺達の気持ちはわからないくせに」
「もうっ。ですから、弟さんの気持ちはわかるって言ってるじゃないですか!」
「ふざけるな!妹のくせに、知ったかぶりをするな!」
「えー、そりゃあ私は妹だけど、兄がいるもん!ちゃんとわかるもん!!少なくとも、博さんよりわかってるもん!」

 不毛な言い争いに正弘は、オロオロし始める。若干、何やってんだよと言いたげな視線も混ざっている。

 子供にそんな顔をさせてしまった自分が不甲斐ない。でも、大人だって完璧じゃない。……まぁ自分だって子供の時は、大人は何でもできると思っていたけれど。

 幻滅させてごめん。夢を壊してごめん。でも、何とかするから。

 この場で真実を伝えられるのは自分しかいないのだ。美亜は心を強く持って、正弘に力強く頷く。

 そうすれば、正弘はくしゃりと顔を歪めて口を開いた。

 離れたくなかった。もっと生きたかった。でも、もう一緒にはいられなかった。本当は大人になりたかった。 自分の足で立って、大切な人達と肩を並べて歩きたかった。

 泥に指を突っ込んだような、ぽっかりとした口から紡がれる言葉は、かつて正弘が生きてきた時の記憶であり、幼いなりに彼が生きようとした証でもあった。 
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