上 下
68 / 95
第五章

あ!これドラマで良くあるやつ②

しおりを挟む
 定時を告げるチャイムが鳴り、美亜と香苗は綾乃に見送られエレベーターへ向かう。

 フロアを出る際に課長をチラッと見たけれど、彼はしかめっ面でパソコンと睨めっこをしていた。言外に今日のボランティア活動は無いと告げられたようで、美亜はがっくりと肩を落とす。

「……あーあ、ビールでも飲もっかな」

 ここ最近、課長のおかげで家の飲みをする機会がめっきり減った。

 一人でも充実した時間を過ごすのが美亜のイメージするキラキラ女子ではあるが、今はちょっと難しい。この週末は、さぞ味気ないものになるだろう。

 ならいっそ給料日前だけれど、金ラベルを解禁してテンションをあげようか。

 ただうっかり寂しさから深酒をして兄に連絡しないよう、ほどほどの量にしようと美亜はひっそりと誓いを立てる。

 そんなこんなでブツブツ呟く美亜を見て、香苗は不思議そうな顔をした。

「あら星野さん、週末は一人なの?」

 絶賛リア充中の香苗だけれど、世界中の人間が週末を楽しむものだと決めつけているわけではない。

 博の噂の真相を伝えたから、てっきり彼と良い関係になっていると思い込んでいるのだ。

「一人ですよー。ロンリーですよー。ぼっちですよーだ」

 半ばやけくそ気味に返せば、香苗はクスクスと笑う。

 もともとクール美人な彼女は恋人のおかげで更に美しさに磨きがかかっている。でも持ち前の姉御肌は健在だ。

「拗ねない、拗ねない。きっと彼から連絡あるわよ。ビール飲みながら、お肌の手入れでもしてなさいよ」
「ははは」

 そりゃあ博から連絡が来たら嬉しいけれど、現在美亜が望んでいるのは課長からの連絡だ。

 でも素直にそれを伝えれば超が付くほど、ややこしい話になる。だから美亜は笑って誤魔化す。と、同時にエレベーターホールに到着した。

 タイミング良く到着したエレベーターは、既に激混み状態。そこにスルリと二人は体を滑り込ませ、息を潜めて1階に到着するのを待った。

 1階のエントランスホールから流れるように右に左にと思い思いの方向に進む社員と歩調を合わせて、美亜と香苗も外に出る。

 しかし歩道に出た途端、思わず立ち止まってしまった。

「うわっ、すごい人!」

 美亜たちの職場は市内の交通拠点でもあり、オフィスビルやデパートが聳える最も活気あふれるエリアに自社ビルを構えている。

 特にクリスマス間近のこの季節、周辺は華やかなイルミネーションで飾られているため、カップル達にとっては格好のデートスポットになっている。

 とはいえ美亜たちにとっては、ただの通勤路。シャンシャンと弾むクリスマスソングと煌びやかな灯りに浮かれるより、歩きにくさの方が勝ってしまう。

「あーあ、うちの職場ってさ、わざわざ見に来なくても毎日このイルミを堪能できるのは役得だけど、新鮮さに欠けるのが難点よね」
「確かにそうですよね」

 パールカンパニーで派遣社員として働き始めて二年半の美亜は、香苗の発言に激しく同意する。

「ま、でも好きな人と見たら新鮮なんだけどね。ってことで、お疲れ。また来週ね」
「はーい。お疲れ様でした」

 駅とは逆方向に向かう香苗は、この後デートなのだろう。ヒールの音がクリスマスソングより弾んでいる。

 それをぼんやりと見つめる美亜だが、香苗が人混みに消えたのを機に身体を駅の方へと向けた。

「デパ地下でも寄ってみるか」

 普段は節約生活を己に課しているが、たまには贅沢も良いだろう。

 そうでもしなきゃ、週末を乗り切れない。っていうか、こんな時に散財しないでいつするんだ。

 などと自分に言い訳をしながら、駅に直結しているデパートに足を向けた途端、背後から声を掛けられた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吉祥寺あやかし甘露絵巻 白蛇さまと恋するショコラ

灰ノ木朱風
キャラ文芸
 平安の大陰陽師・芦屋道満の子孫、玲奈(れな)は新進気鋭のパティシエール。東京・吉祥寺の一角にある古民家で“カフェ9-Letters(ナインレターズ)”のオーナーとして日々奮闘中だが、やってくるのは一癖も二癖もあるあやかしばかり。  ある雨の日の夜、玲奈が保護した迷子の白蛇が、翌朝目覚めると黒髪の美青年(全裸)になっていた!?  態度だけはやたらと偉そうな白蛇のあやかしは、玲奈のスイーツの味に惚れ込んで屋敷に居着いてしまう。その上玲奈に「魂を寄越せ」とあの手この手で迫ってくるように。  しかし玲奈の幼なじみであり、安倍晴明の子孫である陰陽師・七弦(なつる)がそれを許さない。  愚直にスイーツを作り続ける玲奈の周囲で、謎の白蛇 VS 現代の陰陽師の恋のバトルが(勝手に)幕を開ける――!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...