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第四章

そこには本音が混ざってる②

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 課長のマンションの寝室で肉体を取り戻した美亜は、ダイニングに移動する。キッチンでは、天狐から銀縁眼鏡の課長に戻った彼がコーヒーを淹れていた。

「腹は減ってないか?簡単なもので良ければ夜食を作るが」
「あ、大丈夫です」

 カウンター越しに聞かれ、美亜はふるふる首を横に振る。

 そうすれば課長は二人分のコーヒーを持ってテーブルに着いた。美亜も置かれたコップの前に着席する。

「で、話ってなんだ?」
「あー……えっと、東野総合病院の旧館でのことなんですが、お伝えし忘れたというか、あえてしなかったというか」
「お前がすっ転んだことは、公然の事実だから今更言わなくていいぞ」
「違います。それじゃないです。実は、2階を見て回っていた時に大矢さんっていう人に会ったんです」
「男か?」

 間髪入れずに問われ、美亜はあっさり認める。すぐさま課長の眉間に皺が寄る。

「それも合コンの相手か」
「へ!?なんでわかったんですか?」
「お前を待っている間に、東野が喋り散らかして……いや、なんでもない。勘だ、勘。知らない奴ならお前は悲鳴を上げていただろうし、名前なんぞ聞けるわけがないからそう思っただけだ」
「あーなるほど」

 すごい観察力だ。課長が会社でエースでいられるのは、そういうところなんだと美亜は改めて尊敬の眼差しを向ける。

 しかし当の本人は居心地が悪そうで、「それで?」と雑に続きを促した。

「あ、旧館ではその大矢さんは私のことをホラ女と勘違いして、1階まで送ってくれただけです。ただその後、彼の悪い噂を、浅見さんから聞いたんです」
「へぇ、どんなものだ?」
「元カノの母親が病院に乗り込んできたとか、元カノが再起不能になったとか」
「とんでもない野郎だな」
「でも、そうじゃないんです!!」

 ゴミくずを見る目になった課長に、美亜はバンッとテーブルを叩いてしまう。

 マグカップに入っているコーヒーがたぷんと揺れる。幸い零れることは無かったが、課長はあからさまに嫌な顔をした。

「お前の話を聞く限り、その大矢って奴は救いようのない男であることは間違いない。何をムキになってるんだ?お前やっぱダメ男が好み」
「ですから、違います!もうっ、話は続きがあるんです!」

 今度は拳を振って主張すれば、課長はこれ以上無いほど面倒くさそうに「で?」と目で問うてくる。

 なんだその態度はと、文句の一つも言いたいけれど、こっちは聞いてもらっている立場。だから美亜はぐっと感情を押さえて続きを語ることにした。

「浅見さんから大矢さんの噂を聞いた日に、私、直接彼に会ったんですよ。噂の真相が気になって」
「おい」

 課長が鋭い声で割り込んできた。

 今からが本日一番聞いて欲しいところだったのにと不満に思う美亜に、課長は真顔を向けた。
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