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第四章

似た者同士①

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 パールカンパニーから東に徒歩15分。街のメインストリートである広小路通には、堀川という一級河川がある。ここはかつて建築資材運搬用の運河として開削された人工河川。

 そこには納屋橋と呼ばる鉄骨造アーチ形状の橋があり、高欄や親柱に加えて橋梁灯まで凝りに凝っている観光名所。

 またオフィスビルも建ち並んでいるため、お洒落なレストランや居酒屋もごまんとある。



「ーー2名様、ごあーんなぁーいしまーす」
「いらっしゃいませー!」
「いーらっしゃいませー!」

 古民家を改築したお洒落居酒屋に似合わない店員の掛け声に愛想笑いを浮かべながら、美亜は通された席に着く。

 完全個室を売りにしているおかげでプライバシーは保てるけれど、合板一枚で隔てられただけの個室は隣の会話が丸聞こえだ。

 両端の席からは、社会人あるあるの愚痴が絶え間なく聞こえている。週初めの月曜日だというのに、大変な賑わいだった。

「ごめん。ちょっと混んでたね」
「ううん。私は、全然平気ですよ」

 向かい席で、こんなはずじゃなかったと言いたげに頭を下げる博に、美亜は笑って否定する。

 そうすれば博はほっとしたように微笑み「まずは乾杯しよっか」と言ってドリンクメニューを差し出した。 
 
「大矢さんは、何にします?」
「俺はビールかな」
「じゃ、私も」
「おっけー」

 女性にも人気のお店らしくカクテルの種類も豊富だったけれど、美亜は敢えていつも通りに振舞うことにした。素の自分を見せれば、博の隠された一面を覗くことができるかもしれないという気持ちから。

 美亜が博からのメッセージに気付いたのは、ランチを終えて職場に戻る途中だった。

 彼の噂を聞いた直後だし、危険人物に自ら会いに行くのは愚行と考え、最初は適当な理由をつけて断ろうと思った。

 でも結局、博の誘いを受けることにした。理由はやっぱり噂の真相を突き止めたかったから。

 とはいえ、どうやって聞き出すかが最大の難関だ。それとなくというのは言葉にすると簡単だけれど、いざ実際にとなるとかなり難易度が高い。

 そんなことを悶々と考えていれば、店員さんの元気な「しーつれいしまぁーす」という声と共に個室の扉が開き、おしぼりとお通しが互いの席に置かれる。

 と同時に、博は二人分のドリンクを注文しフードメニューも広げた。

「星野さん、味噌系は大丈夫?」
「あ、はい」
「ええっと……じゃあ、どて煮と味噌串カツ。あと手羽先2人前もお願いします」
「かぁーしこまりまぁーしたぁー」

 丁寧な口調で注文を終えた博は、癖のある定員さんの掛け声に「活気があって良いね」と無邪気に笑っている。

 ネットの情報では、DV男はクレーマーが多いらしい。相手が下だと認識すると攻撃するとかしないとか。しかし、今のところその兆候は見当たらなかった。
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