55 / 95
第四章
似た者同士①
しおりを挟む
パールカンパニーから東に徒歩15分。街のメインストリートである広小路通には、堀川という一級河川がある。ここはかつて建築資材運搬用の運河として開削された人工河川。
そこには納屋橋と呼ばる鉄骨造アーチ形状の橋があり、高欄や親柱に加えて橋梁灯まで凝りに凝っている観光名所。
またオフィスビルも建ち並んでいるため、お洒落なレストランや居酒屋もごまんとある。
「ーー2名様、ごあーんなぁーいしまーす」
「いらっしゃいませー!」
「いーらっしゃいませー!」
古民家を改築したお洒落居酒屋に似合わない店員の掛け声に愛想笑いを浮かべながら、美亜は通された席に着く。
完全個室を売りにしているおかげでプライバシーは保てるけれど、合板一枚で隔てられただけの個室は隣の会話が丸聞こえだ。
両端の席からは、社会人あるあるの愚痴が絶え間なく聞こえている。週初めの月曜日だというのに、大変な賑わいだった。
「ごめん。ちょっと混んでたね」
「ううん。私は、全然平気ですよ」
向かい席で、こんなはずじゃなかったと言いたげに頭を下げる博に、美亜は笑って否定する。
そうすれば博はほっとしたように微笑み「まずは乾杯しよっか」と言ってドリンクメニューを差し出した。
「大矢さんは、何にします?」
「俺はビールかな」
「じゃ、私も」
「おっけー」
女性にも人気のお店らしくカクテルの種類も豊富だったけれど、美亜は敢えていつも通りに振舞うことにした。素の自分を見せれば、博の隠された一面を覗くことができるかもしれないという気持ちから。
美亜が博からのメッセージに気付いたのは、ランチを終えて職場に戻る途中だった。
彼の噂を聞いた直後だし、危険人物に自ら会いに行くのは愚行と考え、最初は適当な理由をつけて断ろうと思った。
でも結局、博の誘いを受けることにした。理由はやっぱり噂の真相を突き止めたかったから。
とはいえ、どうやって聞き出すかが最大の難関だ。それとなくというのは言葉にすると簡単だけれど、いざ実際にとなるとかなり難易度が高い。
そんなことを悶々と考えていれば、店員さんの元気な「しーつれいしまぁーす」という声と共に個室の扉が開き、おしぼりとお通しが互いの席に置かれる。
と同時に、博は二人分のドリンクを注文しフードメニューも広げた。
「星野さん、味噌系は大丈夫?」
「あ、はい」
「ええっと……じゃあ、どて煮と味噌串カツ。あと手羽先2人前もお願いします」
「かぁーしこまりまぁーしたぁー」
丁寧な口調で注文を終えた博は、癖のある定員さんの掛け声に「活気があって良いね」と無邪気に笑っている。
ネットの情報では、DV男はクレーマーが多いらしい。相手が下だと認識すると攻撃するとかしないとか。しかし、今のところその兆候は見当たらなかった。
そこには納屋橋と呼ばる鉄骨造アーチ形状の橋があり、高欄や親柱に加えて橋梁灯まで凝りに凝っている観光名所。
またオフィスビルも建ち並んでいるため、お洒落なレストランや居酒屋もごまんとある。
「ーー2名様、ごあーんなぁーいしまーす」
「いらっしゃいませー!」
「いーらっしゃいませー!」
古民家を改築したお洒落居酒屋に似合わない店員の掛け声に愛想笑いを浮かべながら、美亜は通された席に着く。
完全個室を売りにしているおかげでプライバシーは保てるけれど、合板一枚で隔てられただけの個室は隣の会話が丸聞こえだ。
両端の席からは、社会人あるあるの愚痴が絶え間なく聞こえている。週初めの月曜日だというのに、大変な賑わいだった。
「ごめん。ちょっと混んでたね」
「ううん。私は、全然平気ですよ」
向かい席で、こんなはずじゃなかったと言いたげに頭を下げる博に、美亜は笑って否定する。
そうすれば博はほっとしたように微笑み「まずは乾杯しよっか」と言ってドリンクメニューを差し出した。
「大矢さんは、何にします?」
「俺はビールかな」
「じゃ、私も」
「おっけー」
女性にも人気のお店らしくカクテルの種類も豊富だったけれど、美亜は敢えていつも通りに振舞うことにした。素の自分を見せれば、博の隠された一面を覗くことができるかもしれないという気持ちから。
美亜が博からのメッセージに気付いたのは、ランチを終えて職場に戻る途中だった。
彼の噂を聞いた直後だし、危険人物に自ら会いに行くのは愚行と考え、最初は適当な理由をつけて断ろうと思った。
でも結局、博の誘いを受けることにした。理由はやっぱり噂の真相を突き止めたかったから。
とはいえ、どうやって聞き出すかが最大の難関だ。それとなくというのは言葉にすると簡単だけれど、いざ実際にとなるとかなり難易度が高い。
そんなことを悶々と考えていれば、店員さんの元気な「しーつれいしまぁーす」という声と共に個室の扉が開き、おしぼりとお通しが互いの席に置かれる。
と同時に、博は二人分のドリンクを注文しフードメニューも広げた。
「星野さん、味噌系は大丈夫?」
「あ、はい」
「ええっと……じゃあ、どて煮と味噌串カツ。あと手羽先2人前もお願いします」
「かぁーしこまりまぁーしたぁー」
丁寧な口調で注文を終えた博は、癖のある定員さんの掛け声に「活気があって良いね」と無邪気に笑っている。
ネットの情報では、DV男はクレーマーが多いらしい。相手が下だと認識すると攻撃するとかしないとか。しかし、今のところその兆候は見当たらなかった。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
吉祥寺あやかし甘露絵巻 白蛇さまと恋するショコラ
灰ノ木朱風
キャラ文芸
平安の大陰陽師・芦屋道満の子孫、玲奈(れな)は新進気鋭のパティシエール。東京・吉祥寺の一角にある古民家で“カフェ9-Letters(ナインレターズ)”のオーナーとして日々奮闘中だが、やってくるのは一癖も二癖もあるあやかしばかり。
ある雨の日の夜、玲奈が保護した迷子の白蛇が、翌朝目覚めると黒髪の美青年(全裸)になっていた!?
態度だけはやたらと偉そうな白蛇のあやかしは、玲奈のスイーツの味に惚れ込んで屋敷に居着いてしまう。その上玲奈に「魂を寄越せ」とあの手この手で迫ってくるように。
しかし玲奈の幼なじみであり、安倍晴明の子孫である陰陽師・七弦(なつる)がそれを許さない。
愚直にスイーツを作り続ける玲奈の周囲で、謎の白蛇 VS 現代の陰陽師の恋のバトルが(勝手に)幕を開ける――!
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる