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第四章

無機質VSチャラ男①

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 東野和真は、ここ”東野総合病院”の院長の遠縁にあたる。決して、代々続くこの病院の跡取り息子ではない。

 合コンの際に、東野は自ら脳外科医と名乗った。うろ覚えだが脳外科医はエースだったはず。なのに、彼が地元密着病院で働いているということは、おそらく他所で問題を起こすより身内の病院で……という理由からなのだろう。

 そもそも頭のネジが緩んだ東野が、本当に脳外科医かどうかも怪しいところ。そんなどうでも良い疑問が浮かぶが、とにかくチャラ男を受け入れる院長は、ものすごく器の大きい人であることは間違いない。尊敬に値する。

 などと考えながら、美亜は課長の上着を掴んだまま歩く。夜の病院を。

 前方では、課長と東野が声を落として込み入った話をしている。

「ーーっていうことでさぁ、おじさん院長の人を色々呼んで視てもらったんだけど、さっぱりなんだよねー。でもやっぱ、なんかおかしいことは起こってるし」
「死亡者は?」
「今んところは無いねー。危なかったのは3人。今は一般病棟に移ったけど。あ、あと、おじさん院長の毛が更に薄くなった」
「なるほど。そうなると地縛霊ではなく、流動的な奴か。おっさんの毛はおそらく関係ない。育毛専門家に相談しろ」
「そっかぁ。おじさん院長、被る系の方に興味あるから、調べてやろっと。それにしても流動的なものかぁー。なら、どっか流れてくれれば助かるんだけどぉー。居心地良いのかなぁ……ここ」
「それはないだろう。お前が居るんだから」
「あはは、なにそれー」

 緊張感の無い東野の笑いで締めくくられた会話だが、美亜はもう突っ込まずにはいられなかった。

「あの、この人は課長のこと、ご存知なんですか?」

 天狐ワードを口にして良いかわらかない美亜がそれとなく尋ねたら、課長は「だいたい知っている」と教えてくれた。

「あ、そうですか」

 こくりと頷く美亜であるが、心の中はざらりとしている。

 課長が天狐だというのは、自分だけの秘密だと思っていた。

 そりゃあパールカンパニーの守護神だから、会社のお偉いさん達は知っているだろう。でも、プライベートで課長の秘密を知っているのは、他にはいないと信じ切っていた。何の根拠もなかったのに。

 馬鹿みたい。こんなことで、ショックを受けるなんてと美亜は苦く笑う。勘違いをしてしまった自分が実に愚かだ。

 課長と東野は、再び何か難しい話をし始めている。真剣にあれこれ意見を言い合う二人を見て、美亜は仲間外れにされた気分になり、悔しくて堪らなくなる。とはいっても、会話に入れるほどの知識なんてない。

 足を止めずに論議する天狐と医者の組み合わせはミスマッチなはずなのに、妙にしっくりくる。 

 自分の知らない課長の横顔を見ながら、美亜はトボトボと歩き続けた。
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