23 / 95
第二章
いやぁーそのキャラ設定は無理があるでしょ①
しおりを挟む
「ん、私は元気だぃね。お兄も元気そうで安心したんさぁ。彼女さんとは仲良くとしてるかぃ?喧嘩とかしてねぇ?……あーね、そんなんお兄が謝ればいんさぁ。年末の帰省なん?まだわがんねー……あーね、うんうん。それじゃーあ、また」
兄俊郎からの定期連絡を早々に終わらせた美亜は、鍋を覗き込む。くつくつ煮えたお揚げは、テラっとしていて湯気と共に甘じょっぱい香りが食欲をそそった。
街灯りを見下ろしながら風葉にしがみついてワンワン泣いた後、美亜はそのまま彼の腕の中で眠ってしまった。
そうして目が覚めたら朝だった。前回同様、課長の寝室で、かつ課長のベッドで。
真っ先に衣類に乱れが無いか確認した美亜の耳に、「随分と舐めた真似をしてくれるな」と呆れ切った声が届いた。声のする方に視線を向ければ、寝室の入り口扉に背を預けて腕を組む課長と目が合った。
声音とは裏腹に疲れた顔の彼の目の下には、立派な隈があった。
そこで、美亜は一睡もしないで自分を案じてくれていたことを知った。即座に土下座した。
しかし課長の機嫌はなかなか直らなかった。
延々と続く小言に途方に暮れる美亜であったが、それを救ってくれたのは自分の腹の虫。「キュルル~キュル」と可愛く鳴いてくれたおかげで、説教はそこで終わった。
その後「何か食べに行くか?」と、優しくも提案してくれた課長に、美亜はここで料理をしたいと主張した。すごく図々しいお願いだとは重々承知している。お前馬鹿なん?というツッコミも甘んじて受けよう。
だがしかし、兼業農家の家庭で育った美亜の趣味は家事。そんな美亜にとって、セレブ仕様のキッチンで料理をするのは憧れ中の憧れである。
……という手前勝手な理由と共に、キラキラした目で訴えられた課長は、渋い顔をしながらも了承してくれた。
余談だが材料費は全部課長持ち。しなやかな身体つきに似合わず太っ腹である。
などという経緯を得て、美亜は菜箸でお揚げの一つをつまんで状態を確認する。
「……うん。あと少しだな」
呟きながら、今度は隣の鍋を覗き込む。こっちは味噌汁だ。
しかし鍋の中身はクルミのような柔らかい色ではなく、濃い赤茶色。その名の通り、本日使用した味噌は、ご当地味噌である【赤だし】を使用している。
初めて赤だしの味噌汁を飲んだ時、美亜の感想は「苦い!しょっぱい!なんだコレ!?」だった。
しかし苦みの奥にある旨味に気付いた途端、恋に落ちるかのように赤だしの虜になっていた。
といっても赤だしが本日のメインディッシュではない。
調理台に並べられているのは、酢飯に錦糸卵にイクラにそぼろに、刻んだ茎わさび。他にもゴマや桜でんぶに細く切ったガリ。
そう。本日のスペシャルランチは天狐も大好き稲荷ずしだったりする。
兄俊郎からの定期連絡を早々に終わらせた美亜は、鍋を覗き込む。くつくつ煮えたお揚げは、テラっとしていて湯気と共に甘じょっぱい香りが食欲をそそった。
街灯りを見下ろしながら風葉にしがみついてワンワン泣いた後、美亜はそのまま彼の腕の中で眠ってしまった。
そうして目が覚めたら朝だった。前回同様、課長の寝室で、かつ課長のベッドで。
真っ先に衣類に乱れが無いか確認した美亜の耳に、「随分と舐めた真似をしてくれるな」と呆れ切った声が届いた。声のする方に視線を向ければ、寝室の入り口扉に背を預けて腕を組む課長と目が合った。
声音とは裏腹に疲れた顔の彼の目の下には、立派な隈があった。
そこで、美亜は一睡もしないで自分を案じてくれていたことを知った。即座に土下座した。
しかし課長の機嫌はなかなか直らなかった。
延々と続く小言に途方に暮れる美亜であったが、それを救ってくれたのは自分の腹の虫。「キュルル~キュル」と可愛く鳴いてくれたおかげで、説教はそこで終わった。
その後「何か食べに行くか?」と、優しくも提案してくれた課長に、美亜はここで料理をしたいと主張した。すごく図々しいお願いだとは重々承知している。お前馬鹿なん?というツッコミも甘んじて受けよう。
だがしかし、兼業農家の家庭で育った美亜の趣味は家事。そんな美亜にとって、セレブ仕様のキッチンで料理をするのは憧れ中の憧れである。
……という手前勝手な理由と共に、キラキラした目で訴えられた課長は、渋い顔をしながらも了承してくれた。
余談だが材料費は全部課長持ち。しなやかな身体つきに似合わず太っ腹である。
などという経緯を得て、美亜は菜箸でお揚げの一つをつまんで状態を確認する。
「……うん。あと少しだな」
呟きながら、今度は隣の鍋を覗き込む。こっちは味噌汁だ。
しかし鍋の中身はクルミのような柔らかい色ではなく、濃い赤茶色。その名の通り、本日使用した味噌は、ご当地味噌である【赤だし】を使用している。
初めて赤だしの味噌汁を飲んだ時、美亜の感想は「苦い!しょっぱい!なんだコレ!?」だった。
しかし苦みの奥にある旨味に気付いた途端、恋に落ちるかのように赤だしの虜になっていた。
といっても赤だしが本日のメインディッシュではない。
調理台に並べられているのは、酢飯に錦糸卵にイクラにそぼろに、刻んだ茎わさび。他にもゴマや桜でんぶに細く切ったガリ。
そう。本日のスペシャルランチは天狐も大好き稲荷ずしだったりする。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる