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第二章

このタイミングで自己紹介されても……ねぇ?②

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 課長は美亜を抱いたまま、夜の街を飛ぶ。

 かつて城下町だった碁盤割を抜けて、ライトアップされた金のシャチホコの真横を通過し、真ん丸なドームを見下ろし、地元民には「基幹バスレーン」と呼ばれている県道を進む。

 たぶん上空からこの街を堪能できる23歳女子は自分だけだろう。

「……すごいですね。都心を離れても明かりがずっと続いてるなんて」
「お前、どこで生まれたんだ?」
「……山です。ド田舎です。猿を見て騒いだら馬鹿にされるようなところです」
「へぇー。見えねえな。てっきりここが地元だと思ってた」
「へへっ」

 さらっと言ってくれた課長の一言がとても嬉しい。

「課長、さっきも言いましたけど、私、超ー頑張りますね」
「その言葉、最後まで忘れるなよ。あと今は課長はやめろ。調子が狂う」
「じゃあ、えっと……指宿さん?」
「悪くは無いがーーっと、到着だ」

 ピタッと課長が止まった場所は、派遣社員の美亜でも知っているパールカンパニーにとって超お得意様の自社ビルだった。

 食品総合商社のここは1階から4階までは店舗になっていて、その上は事務所。全部で12階建ての建物は、都心を離れているということもあり、異常な存在感を放っていている。

 あと目を凝らせば、そこそこ広い屋上に鳥居がある。そう、鳥居があるということは……

「まさかここで、そのマガタイっていうのを引っ張ってくるんじゃ」
「その通りだ。なんだ、お前。意外に頭が切れるじゃないか」

 褒められたって嬉しくない。だって他所様の会社の敷地内に無断で侵入するなんて、どう考えても犯罪行為である。

 それを美亜は課長に訴えた。しかし返ってきた言葉はこうだった。

「肉体を離れた精神だけの状態で、どう取り締まるんだ?それに俺は天狐だ。人が作った法律を守る義務は無い」

 確かに課長は人じゃない。でもモラル的にどうなのだろう。

 などと再び美亜がごにょごにょと言い出せば、課長は「ははっ」と笑った。冷めた目だった。要は黙れということで。 

「社長は知ってるんですか?後で揉めても知りませんよ」
「安心しろ。了承済みだ。ってことで、打ち合わせ通りにやってくれ。ヘマすんなよ」
「……ぜ、善処しまーーぅうわぁぁーー」

 弱気な返事をした途端、課長に突き飛ばされた。

 落下独特のお腹がふわんとなる感覚と共に、みるみるうちに鳥居が近づいてくる。

「ーー俺の名は風葉だ。天狐の時はそう呼べ」

 へちゃりと着地したと同時に、課長の声が降って来た。

 振り返って見上げれば、幾つもの狐火を従えた課長改め風葉が意地悪く笑っていた。
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