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第二章

このタイミングで自己紹介されても……ねぇ?①

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「おい、目を開けろ」
「んぁ?……えーーー!!」

 唸るような課長の声で目を覚ました美亜だが、自分が置かれている状況に悲鳴を上げた。

 だって、足元には煌々と輝く街明かり。今、自分は空を飛んでいる。いや、正確には狐コスになった課長に担がれて空中に浮かんでいるのだ。

「か、かっ、かちょ……ちょ、ちょ、こ、これ……これは!!」
「一仕事してもらうのに、肉体は邪魔だからおいて来た」
「えーーー!!」

 もう何度目かわからない悲鳴に、課長はうんざりした表情を作った。

「今から説明するから、いちいち悲鳴を上げるな」
「こうなる前に説明を!」
「口で説明するよか、多少実体験してから話した方が早い」
「私の心の準備がっ」
「そんなもんしなくていい」
「えー!」

 今度は悲鳴ではなく非難の声を上げる美亜を無視して、課長は説明を始めた。

「お前が今からやることは、とある神社に行って禍体まがたいを鳥居の前まで引っ張ってくることだ」
「まがたいって何ですか?」
「見りゃわかる。ま、簡単に説明すれば呪いの権化だ」
「……無理です」
「大丈夫だ。お前ならできる」
「何を根拠に!?」
「天狐姿の俺にハッピーハロウィンって言うくらい神経が図太いからだ」
「……根に持ってます?」
「まさか」

 課長は、わざとらしく目を逸らした。どうやら図星だった。

 あの時、ノリで言った一言でこんな目に合うなんて。口は災いの元とは良く行ったものだ。北風がちょっぴり目に染みる。

 そんな後悔の念に苛まれる美亜を無視して課長は、目的地に向かう。青白い小さな炎ーー狐火を従えて。

 ターン、ターンと課長は高層ビルの屋上とか、電信柱の天辺を蹴り高く跳躍しながら空を舞う。重力は一切感じない。

「……なんか木の葉になったみたい」
「お、雅な表現だな。歌も読めるなら、今度ババアと歌合わせでもしてやれ。喜ぶぞ」
「課長ったら偉大なる日本書紀のキャストをババア呼ばわりしちゃ駄目ですよ。もうっ」
「なんだ、ババアに絆されたか。駄目男の次は、年増のババアか……お前、もう少し相手を選べ。間口が広すぎるだろ」
「違います!くくり姫様はそんなんじゃなくって!!」
「わかってる。……よし、調子が戻ってきたな」
「っ……もう、もうっ」

 子供みたいに頬を膨らます美亜に課長は笑い声を上げた。そんな課長をジト目で睨む美亜だが、半分は緊張を解す為に軽口に付き合ってくれた天狐に対しての照れ隠しだ。

「安心しろ、どうにもならない状況になったら俺が助けてやる」

 急に真顔になった課長に、美亜は悪縁を切ってくれた対価は払わなければならないと覚悟を決めた。

「よ、よろしくお願いします。私も頑張ります!」

 ごくりと唾を飲んでからそう言えば、大きな手が頭の上に乗のった。

 頼もしい男の人の手だった。
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