最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
8 / 8

しおりを挟む
「取り乱して、すまなかった」

 顔を覆っていた手を離してエルディックが、ぎこちなく笑いながら言った。

 小さく首を横に振ると、彼は今度はホッとした笑みに変わる。

「逃げないで欲しい」

 切実な声と、沈痛なまなざしは、こちらの胸が痛くなるほどで、彼がどれだけこの再会を待ち望んでいたのかを改めて知る。

「逃げません」
「そうか。ありがとう」
「いえ」
「あと俺を嫌わないで欲しい」
「あなたが私を嫌わなければ」
「何度も言ってるが嫌ってない」
「そうですね」
「ああ」

 たどたどしい会話をしながらも、実はリシャーナの心は忙しい。

 だって記憶は無いし自覚も無いけれど、エルディックから告白されたのだ。これ、有耶無耶にして良いのかな?いや、良いわけない。

「あの……告白の件なんですが」
「ああ、そうだ。そうだったな」
「返事をしないと」
「いや、いい……違う。待て、ちょっと待ってくれ」
「あ、はい」

 手の甲を口元を当てたエルディックは顔を背けたかと思えば、今度は上着の襟をピンと正す。

 再びこちらを向いた彼は、完璧な侯爵家嫡男の顔だった。

「失礼、お待たせしました。リシャーナ嬢」
「へ?」

 急激な変化に付いていけないリシャーナに、エルディックは優美に微笑みかける。

「本日はお越しいただきありがとうございます。このエルディック・アラド、ずっと貴方と再会することを夢見てました。さぁ、どうぞこちらに」

 言うが早いかエルディックは目を白黒させるリシャーナの手を優しく取ると、洗練された動作で椅子に座らせた。

 されるがまま着席したリシャーナの前に、エルディックが片膝をつく。

「天候にも恵まれて良かったです。我が家の自慢の庭園を貴方に見て欲しくて、庭師も今日のために頑張りました。さて席も気に入っていただけたようですので、学生時代の昔話も交えながらこれまで私が、どれほそ貴方を乞うてきたか聞いていただきましょう」
「……はい?」
「ご安心ください。今日は貴方の好きなケーキを沢山用意しました。絶対に、退屈はさせません」
「え……え、ちょ、ちょっとお待ちを」
「待てません。今日の為に、私は持てる全てを使ってきたのです。あと頑なに貴方との席を拒んだお父様の胸倉を掴まなかった私を褒めてください」
「……っ」
「ははっ、冗談ですよ。ま、こういう冗談はお嫌いでしたか。以後気を付けます。ああ、貴方のお父様に対して私は尊敬の念を抱いてますよ。いずれ父と呼ぶお方ですしね?」
「ええ!?」

 急に飛躍した話に驚くあまり、リシャーナは座ったまま飛び跳ねた。

 そんな器用な芸を間近で見たというのに、エルディックは不思議そうに首を傾げた。

「そこまで驚く必要はありますか?なにせ今日はーー」

 一旦言葉を切ったエルディックは、おもむろにリシャーナの手を取り己の口元に引き寄せた。

「生涯の伴侶を決める、お見合いなのですから」

 そう言って指先に口付けを落としたエルディックの目は、あの日、図書室で見た時より鋭く情熱的な色を湛えていた。



◆◇◆◇おわり◇◆◇◆


最後までお読みいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

chococo
2022.04.16 chococo

なるほど、なかなか面白い終わり方でした。
リシャーナが黒歴史とする過去の出来事も、他人が聞くと大したことのない話なのに思春期の女の子からするととても苦い思い出という絶妙な出来事。さらりと読めるバランスのよいお話でした。

解除
菫
2022.02.20

とっても可愛くて素敵なお話をありがとうございました!
いつか続編など読めたら嬉しいです(*'▽'*)

解除
ぬかどこ
2022.02.19 ぬかどこ

続きが読みたい…!って思いました!
こんなドキドキするところで終わっちゃうなんて〜😆

結婚式でエルディック様を泣かせて欲しいです

解除

あなたにおすすめの小説

デートリヒは白い結婚をする

毛蟹葵葉
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。 関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。 式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。 「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」 デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。 「望むところよ」 式当日、とんでもないことが起こった。

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。