最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜

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 ま、それもこれも全部過去のことなんだけどね。

 つらつらと過去を振り返ったリシャーナは、そっと胸を押さえる。

 思い出したとて、どうすることもできないくせに、胸の痛みだけは鮮明に与えてくれる黒歴史というのは、本当に厄介なものだ。

 そして黒歴史という名の箱はパンドラの箱のようだとも思う。ただ唯一違うのは黒歴史の箱には希望が入っていない。

 目の前にいるお見合い相手ーーエルディック・アラドは、あの手この手を使ってエデュス家を追い詰め、自分を強引に呼びつけたくせに、しかめっ面をしている。

 実のところ、嫌々出席したこのお見合いであるが、ほんの少しだけ彼と仲直りができるのではないかと期待していた。

 もしかしたら彼も同じ気持ちを抱えているかもと思えたからこそ、アラド家の門をくぐることができた。

 でもエルディックは、何も変わっていない。いえ、むしろ刺のある態度が増している。

 ああ、違う。刺のある態度は語弊がある。自分が優しかった彼を知っているからそう思うだけなのだ。

 彼にとって自分は友人でも同窓でもない。を取っているだけなのだろう。

 そのことに気付いたリシャーナは、強い羞恥を覚えた。

 でも、かつてエルディックはこう言ってくれた。

『なんでも話してくれればいいし、どんな相談事もリシャーナなら大歓迎さ。それと卒業したって、社交界デビューをしたって、俺はずっとお前の味方だからな』

 ……嘘つき。大嘘つき。
 無かったことにするなら、あんなこと言わなければ良かったのに。

 絶対に声に出せない恨み言が、胸の中で溢れた。



「ーー元気にしていたか?」

 しかめっ面のままティーカップを傾けていたエルディックから問われ、リシャーナは現実に引き戻される。

「見ての通りです」
「見てわからないから聞いているんだ」
「……今朝までは元気でした」
「つまり、今は元気じゃないとでも?」
「……」
「俺に会ったから元気が無くなったとでも言いたいようだな」
「このお茶、美味しいですわ。ケーキも美味しそう。いただきます」

 会話を拒むようにリシャーナはフォークを手に取り、ケーキを一口大に切り取る。

 ラズベリーのチョコレートケーキは、リシャーナの大好物だ。学生時代もエルディックと一緒に食べたし、一番好きなケーキだと伝えたことがある。

 それを今日、用意したのは偶然なのだろうか。それとも何かしらの意図があってのことなのだろうか。

 目の前にあるケーキは食べなくても美味しいことはわかる。でも、彼の気持ちは深い霧の中で迷子になったように、全くわからなかった。
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