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一通の招待状と、悪役令嬢の婚約者②

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「もう。いつも言ってるでしょ。わたしがしたくてしてるんだから、心配しないで。ずっと、リョウカちゃんには助けられてるんだから。今度はわたしがお返しする番なの」

 わたしはムツミを助けたことなんて一度もない。自分の承認欲求を満たしたいがためだけに、何も出来ないムツミを守る振りをして後ろに侍らせていただけ。

 ただ、それもいつかは終りが来るのかもしれないと、アズキの死によって思い知らされた。これからもずっと一緒だと信じていたアズキも急に死んでしまった。寿命だから仕方がないとはいえ、わたしの傍から居なくなってしまった。ムツミだって何かしらの原因でいつかはわたしの傍を離れてしまうかもしれない。

 それが、わたしにはたまらなく怖かった。自分を認めてくれる人が居らず、一人ぼっちになるのが、怖くて怖くて仕方がない。

 だから、ムツミを繋ぎ止めておこうとした。首輪でもリードでもなんでも良いから、わたしの元を離れないようにキツく縛って。

 扉の開く音に続いて、光が差しこんでくる。電話を盗み聞きしてしまったのをバレないように、わたしは目を瞑った。小さな足音が近づいてきて、ベッドの傍で止まる。わたしの頭にムツミの手が添えられる。

「大丈夫。わたしはどこにも行かないよ」

 その言葉に、柔らかい声に、手の暖かさに、安心しきったわたしはすうっと眠りに落ちそうになる。

 頭を撫でていたムツミの手が頬を伝って身体を降りていく。その指先の滑るこそばゆい感触にわたしは身悶えしそうになる。

 指がわたしの首元、先程ムツミにつけられたばかりの噛み傷に貼られたガーゼに辿り着くと、ぐっと力が込められた。ムツミの指がぐりぐりと傷を抉る。

 痛みに我慢しきれず、わたしの口から熱っぽいうめき声が漏れる。

「んふふ、リョウカちゃん。かわいい」

 心底嬉しそうにいやらしく笑いながらムツミは指に力を込め続ける。その声は、きっとわたし以外の誰にも聞かせたことのない、ムツミの仄暗い部分。わたしだけの特権。

 本当に一人じゃ何も出来ないのは、ムツミかわたしか。

 本当に首輪で繋がれているのは、ムツミかわたしか。

 そんなこと、どうでもいい。

 ムツミがいつまでも傍に居てくれるなら。
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