盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

あの時は、そんなつもりじゃなかった。なのに気付けば恋に落ちていた

3

　アシェルの瞳の色は、深い海のような黒みがかった青。その奥は秋の木漏れ日のようにキラキラと金色に輝いている。

　金色の煌眼を持つものは、魔力が桁違いに高い。稀代の魔術師と謳われているグレイアスだって紫色。ロキは魔法で煌眼を隠してるが、それでも銀が混ざった紫色止まり。

　つまりアシェルは、伝説級の煌眼の持ち主だった。

　そんな彼は、うわごとのように「目がぁ……目がぁ」と繰り返すノアを抱えるように父である国王エルシオの元へ行く。

　これまで世捨て人扱いされていたことなど嘘のように、アシェルの足取りは力強く威厳に満ちていた。

「ーーこれも余への祝いの品か？」

　アシェルをじっと見つめたエルシオは、軽く眉を上げて問うた。

　かつて王位継承資格が無いとはっきり言葉で伝えたことをエルシオはちゃんと覚えている。覚えているからこそ、敢えて祝いの品なのかと聞いた。

　返ってきたのは、どうとでも取れる微笑だった。憎らしいほどに若い頃のエルシオに似ている。

「そう思っていただければ幸いです。……さて、ノア」

　アシェルはエルシオに目礼すると、ノアを抱いている腕を離す。次いで膝を付き、未だ混乱の森をさ迷っているノアの顔を覗き込んだ。

「どうだい？」
「……き、き、きれいでしゅ」

　なぜここで噛むのか。

　あまりにノアらしくて、アシェルは吹き出しそうになる。

　しかし余計な会話はしないと決めている。

　意識が明瞭でない方が良いのだ。だってその方がノアが罪悪感を覚えなくて済むから。

「奇麗と言ってくれて嬉しいよ、ノア。じゃあ気に入ってくれた？」
「はいっ、すんごく」
「うん、そっか。じゃあ、ずっとこのままでいる方が良いかい？」
「当たり前じゃないですかっ。見えている方が絶対に良いです！殿下、ずうっとこのままでいてください！！」

　誘導尋問と気付かれぬよう細心の注意を払ってノアから望む言葉を引き出した途端、これまでずっと腰を抜かして床で震えていたローガンが奇声を上げた。

「ぅうわぁあああっ！！痛い！痛い！痛い！痛い！痛い！痛い！痛い！なんだっ、目がっ痛い！！くそっ、見えないっ！！痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

　突如として両目を押さえてのたうち回り出した第一王子に、再び会場は騒然となる。

　ローガンの親であるエルシオもさすがに動揺を隠せない。ノアも、なんだなんだとぎょっとする。
　
　けれどもアシェルだけはどこまでも冷静だった。

「兄上、人前でみっともないですよ。１０年前、私がこれを受けた時は、そこまで暴れたりはしませんでしたのに」

　やれやれと呆れた顔をするアシェルの目は冷ややかだった。でも拳は小刻みに震えている。

　アシェルはずっとこの機会を待っていた。己が受けた呪いを、持ち主に返す瞬間を。


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　文字数の都合で、中途半端なところで終わってしまいました。申し訳ありませんm(_ _"m)

　ん？？(・・?　と、なってしまったと思いますが、詳細は次のお話でお伝えします(o*。_。)oペコッ