盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

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おかしい。お愛想で可愛いと言われてただけなのにドキッとするなんて

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 これまでグレイアス先生の指導のもと、どれだけへなちょこステップを踏んでもノアは別段恥ずかしいなんて思ったことは無かった。

 ついでに言うとダンス中にグレイアス先生の足を踏んでも、毎度悪いとは思いつつも「だって仕方ないじゃん」と開き直る部分があったし、危険を察知して避けてくれれば良いのにさと人任せにしたい気持ちだってあった。

 そしてそんなふてぶてしい気持ちは夜会が終わるまで変わらないと思っていたし、ぶっちゃけダンスなんて覚えたくもなかった。

 なのにいざアシェルと共に踊るとなると、こうも緊張してしまうのはどうしてだろう。ダンス以外でも、人の目なんてこれまで一度も気にしたことなんてないのに。

(あー……こんなことなら、ちゃんとダンスのレッスンを真面目に受けておけば良かった)

 などと酷く後悔する自分にノアは驚いてしまう。

 しかし、そんなことを悶々と考えるノアは、端から見ればどうしたってダンスを踊りたくないと駄々をこねているようにしか取れない。

 対してアシェルは、ノアとダンスが踊りたい。
 いや、踊りたいというよりは、自分の婚約者がレッスンとはいえ異性に身体を密着させている現状に我慢ができないのだ。

 そんなわけで盲目王子は、アメとムチの要領でこんな提案をする。 

「よし、じゃあこうしよう。今から踊る曲でノアが一回も私の足を踏まなければ、午後は全部の授業をお休みにしよう。どうだい?ノア。ご褒美付きなら、私と踊ってくれるかな?」
「なんですと!?」

 叶うことなら是非ともそうしたいという感情で、思わずノアは声をあげた。

 けれどノーミスで踊るなど奇跡に近いこと。猫に”お手”を覚えさせるようなもので、神様とてきっと実現させるのは難しいに違いない。

 なのにアシェルは自信満々のご様子で、ポカンとする宮廷魔術師に声をかける。

「グレイアス、それでいいね?」
「......か、かしこまりました」

 突拍子もない発言にグレイアスは、やや引きつった顔をしたが慇懃に頭を下げた。

 しかし顔を上げた彼の表情は「やれるもんなら、やってみろ」と好戦的なそれだった。はっきり言ってしまえば、絶対に踊れっこないと決めつけている。とても悔しいが、ノアも先生と同意見だ。

「......殿下、足を踏む回数を2回までとかにした方が良いのでは?」

 盲目王子に逆らえない宮廷魔術師なら、きっとこの要求を飲んでくれるだろう。そしてノアは、降って湧いたこのチャンスを無駄にしたくない。

 サボることは働き者のノアの美学に反するけれど、如何せん足の裏の皮が限界なのだ。明日から心を入れ換えて真面目にレッスンを受ける為にも、是非とも午後のお休みを欲したい。

 そんな気持ちから、こそっとノアはアシェルにハードルを下げるようお願いする。

 しかしアシェルはくすりと笑ってノアの提案を一蹴してしまった。

「大丈夫、ノア心配要らないよ。私が君に魔法をかけてあげるから」

 盲目ゆえに王位継承権を剥奪されたことをすっかり忘れてしまったアシェルの発言に、ノアは午後のお休みが軽やかなステップを踏みながら遠ざかる光景がしっかりばっちり見えて、がっくりと肩を落としてしまった。
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