盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

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そういうことをされたら、思わず触れてしまいたくなるのは仕方がない

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 行くと決めたら、すぐに行動するのがノアである。

「では殿下。お茶の途中ですが、失礼します」

 そう言ってノアはぺこりと頭をさげてから、アシェルの膝から降りようとした。だがしかし、降りれない。見た目よりも太い腕が、お腹に絡まっているのだ。

 そしてその腕の持ち主は、迷うこと無く的確にノアの小さな耳に唇を寄せた。

「ノア、私はまだマカロンを食べてないよ」
 ───食べさせてくれなきゃ降ろさないよ。

 耳元で囁かれた言葉に、ノアはぴきっと固まった。

 マカロンを”あーん”する件は、もうすっかりノアの中では終わったことになっていたから。

(えええー……それやっぱ、やるのぉ)

 声にこそ出さないけれど、グレイアス先生の授業を受ける代わりに、ギャラリーがいる場で殿下へデザートを食べさせるお仕事は、チャラになったと自分の中で思い込んでいた。

 しかし、どうやら”それはそれ”または”うちはうち、よそはよそ”というものであった。

「ノア様。お早く、どうぞ」

 しかも追い打ちをかけるようにフレシアが非情な言葉をノアに向ける。

(ああっ、もうやるしかない!)

 覚悟を決めたノアは、無言でアシェルの口にマカロンをねじ込むと、そのままダッシュでグレイアス先生のお部屋に向かった。




***





「─── 殿下の側近が、私の傍にいるは良くないことだと思います」
「そうですね」
「でも、その話を殿下にしようとすると、なぜか殿下の耳は遠くなるんです」
「そうですね」
「だからグレイアス先生、耳が遠くならない魔法ってないんですか?」
「そうですね……って、あるわけないでしょう」

 ノアの主張を聞き流していたグレイアスは、最終的に出来損ないの生徒に向けてため息を吐いた。

「あのですねぇ、ノア様。もう何度も言ってますが、魔法というのは全て精霊からの恩恵なんです。人間の都合で好き勝手にできるものじゃないんです」
「でも、耳の精霊からしたらちゃんと聞いてほしいって思うもんじゃないの?」
「この世にそんな精霊は存在しませんっ」

 グレイアス先生が青筋立てて怒鳴ったと同時に、ぴしゃんと教科書を机に叩きつける音がしてノアは身をすくませた。

 そしてつい脱線してしまった本日の課題に視線と意識を戻して、辞書を引きつつ魔法文字を解読していく。


  
 本日のグレイアス先生は、とても珍しいことに機嫌が良い。

 怒鳴られて教科書を叩きつけられたくせに、よくまぁそんなふうに思えるなんてと言いたいだろうけれど、普段なら授業以外のことを喋ろうもんなら、グレイアス先生は待ったなしで激怒する。

 なのに今日は、ちょっとだけノアの呟きに耳を傾けてくれた。

 たったそれだけで、ノアはグレイアス先生の授業に出て良かったなと思ってしまう。

 対して、怒鳴りつけたはずなのにヘラヘラ笑いながら課題をこなすノアを見て、グレイアス先生はガシガシと乱暴に髪をかきながら窓に視線を移した。
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