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二部 こんな贈り物は受け取れませんが……何か?

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 前日までずっと心配していた天候だけれど、バザー当日は晴天に恵まれた。

 青く澄んだ空に、真っ白な入道雲が浮いている。これでもかと夏の日差しが降り注いでいるけれど、バザー会場は予想を上回る人だかりだ。

 この集客は、使用人たちによる口コミ宣伝の他に、ルシフォーネが友人や知人に手紙を送ってくれたおかげだ。

 いい意味で期待を裏切る結果となった代償に、次の次の夜会も出席しないといけないかもとカレンは内心焦っているけれど、そうなったらその時に考えようという結論に至る。

「よしよし、いい感じに売れてる!それに、ウッヴァさんのお花も好評で良かったぁー」 

 突貫工事で作った花壇は少々ガタついているけれど、ウッヴァが人生の大半をかけて育てたサーバウルの素晴らしさによって、誰にも気づかれていない。

 花壇には仕立ての良い服を着た紳士たちが、ウッヴァとにこやかに対話している。

 彼らが新しい支援者になるかどうかはわからないけれど、どうかウッヴァの力になってくださいと祈らずにはいられない。

 ふと視線をずらしたら、マルファンが必死に神に祈っていた。

 バザーが成功したことへの感謝の気持ちを込めて祈りを捧げているようにも見えるけれど、チラチラとウッヴァに視線を向けているから、それだけではなさそうだ。

 神殿と教会は犬猿の仲だから、ウッヴァをマルファンに引き合わせた時、カレンは手が汗ばむほど緊張した。しかし不安を余所に、二人はあっという間に打ち解けた。

 敵意をあらわにして、今にも石を投げそうな勢いだった孤児院の子供達も、汗を流して花壇を作り、黙々とフルーツ飴のラッピングをこなし、空いた時間で孤児院の雨漏りまで修理をしたウッヴァを目の当たりにして、徐々に心を開いていった。

 今では、商談中のウッヴァの背中によじ登るほどの懐きようだ。それを邪険にしないで、肩車をしながら商談を続けるウッヴァは、大の子供好きと見た。

 険悪な関係だったにもかかわらず、その垣根を超えてバザーの協力をしてくれたウッヴァの未来が明るくなることを、マルファンは願っているのだろう。

 きっかけを作ったのは自分だったけれど、ウッヴァとマルファンが仲良くしようという気持ちがなければ、こんなにすぐに打ち解けることはできなかったはずだ。

 これを機に、他の神殿と教会も仲良くなればいいなと思うが、それはきっと時間がかかることなのだろう。

 カレンが提案したフルーツ飴の売り場には、令嬢や夫人が列をなしている。

 外にいる皆は直射日光を受けているから、総じて暑い。そんな来場者を気遣い、孤児院の子供たちが冷たい飲み物を配っている。これもカレンの発案だ。熱中症対策は、世界が変われど大事なことである。

 少し塩を入れた果実ジュースを飲んだ人たちが、ほっと息をつく。令嬢たちが木陰で買ったばかりのフルーツ飴を太陽にかざして、キャアキャアと笑いあう。孤児院の子供たちが歌を披露し、来場者が拍手を贈る。小さな子供の手を引く夫婦が、花壇に植えられたサーバウルの花に足を止め、目を輝かせる。

 バザー会場は夏の太陽より輝いていて、キラキラと目が痛いほどに眩しい。

 そんな光景を──カレンはたった一人、孤児院の2階の窓越しから見つめている。

「……リュリュさんも、アオイも、大げさすぎるんだよね」
 
 ぼやくカレンの足には、真っ白な包帯が巻かれている。これはウッヴァを救うために負った、名誉の負傷だ。実際は、一人で空回りした結果の怪我だけれど。
 
 幸い骨は折れてなかったけれど、重度の打撲で全治1ヶ月と診断された。

 今では痣を強く押さなければ痛まないけれど、過保護のリュリュは、バザーの参加を許してはくれなかった。

 アオイに至っては、参加するとゴネるカレンに向かって「椅子に縛り付けていい?」と真顔で訊いてくる始末。

(リュリュさんだって、絶対に聞こえてたはずなのに!)

 主人に対する礼儀にはうるさいはずなのに、あの時、アオイを叱らなかったのは、リュリュも同じ気持ちだったからなのだろう。

(まったくもう!こんな時だけ、意気投合するなんてさ)

 憤慨するカレンだけれど、自分を案じるが故の言動だというのはわかっているので、口には出さないし、こうして大人しく見学している。

 とはいえ、参加したい気持ちが消えたわけじゃない。

 往生際悪く、当日になってもゴネるカレンに、アオイは「次に参加すればいいじゃん」と呆れ顔になったが、カレンは次の機会を楽しみにしたくはない。

 この世界で予定を立てるということは、自分に枷をつけること。

 元の世界に戻りたい。いや、絶対に戻ると決めているカレンは、今だけを見ていたい。

「だから参加したかったのに……ん?……あ」

 しつこくぼやくカレンだったが、人の気配を感じて、そこに目を向ける。

(やっぱ、来たか)

 読みが当たったカレンは、溜息を吐く。

「仕事サボっていいの?シダナさんが泣くよ?」

 口に出してはみたものの、別にシダナが泣こうが困ろうがどうでもいい。

 ただ今日もまた、音もなく現れたその人──アルビスに向けて意地が悪いことを言いたかっただけだ。

 一方、アルビスは、カレンからそう言われて眉を少し下げた。でもそれだけで、無言で窓辺に立った。
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