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二部 恋のアドバイスなんてしたくありませんが……何か?

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 カレンがセリオスに詰め寄られている間、ヴァーリは側室3人を迎えに行っていたようだった。

 そして任務が終わった彼は、ごく自然にアルビスの元に戻ろうした。けれど、

「ヴァーリ、ラーラと下で踊ってこい」
「え?なんで……ですか?」

 きょとんと不可解な顔をするヴァーリとは対照的に、ラーラはぱぁっと花が咲いたような笑みを浮かべた。綺麗に巻かれた紫色の髪が一段と輝きを増す。

 補足であるが、ラーラとはカレンがこの世界に召喚される前から皇后候補としてこの宮殿にいた女性で、カレン曰く木曜担当である。

 そんな木曜担当側室は、ヴァーリからでもちゃんと見えている。なのに、意味がさっぱり分からない彼は、馬鹿という評価に、鈍感という評価も付け加えるべきだ。

 そしてアルビスは時間が惜しい。長々と側室をこの上座に置きたくはない。

「良いから早く行け」

 説明しても無駄だと言わんばかりに強い口調で命令されたヴァーリは、ぎこちなくラーラに手を差し伸べダンスホールへと向かう。

「リビ、お前はルシフォーネと話しでもしていろ」
「かしこまりましたわ。陛下」

 推定火曜担当の側室を愛称で呼ぶアルビスだけれど、その表情はとても淡々としていた。

 そして目の前から消えろと言われたリビも、不満げな表情を浮かべること無く素直に頷きアルビスの視界から消えた。 

 2名の側室が消え、アルビスの前に残ったのは一人。曜日担当不明の少女。
 
 カレンは知らされていないが、この人物は、実はアルビスが聖皇帝となってから側室となった。

 ただ2名の側室に比べ、ダントツに幼い。カレンより年下の側室は、まだ少女と呼ぶべき年齢であった。

 けれどその歳に似合わず、少女はとても肝が据わっているようで冷徹な聖皇帝を前にしても、怯える様子は無い。

 声を掛けられるのは、自分が最後であることをしっかり理解しているようで、腰を落とした姿勢のまま、ただただ微笑みを浮かべるだけ。

 そんな少女に、アルビスは短く命を下した。

「しばらくカレンの傍に居ろ」
「あら……わたくしが?あの……本当によろしいのでしょうか?」

 口元に手を当て目を丸くする少女に、アルビスは心底嫌そうに口を開く。

「仕方がない。至る所に護りを張り巡らせても、結局アレは怪我を負う。それに神殿の連中の動きが、何やらきな臭い」
「……まぁ、それは怖いこと」

 口調だけは怯えているが、実際のところ少女は苦笑を浮かべている。相当心丈夫なようだ。

「それとしばらくと言ったが、期間はカレン次第だ。一度でも嫌と言われたなら、二度と傍には置かない。心しろ」
「ええ。もちろんでございますわ」

 少女はアルビスの厳しい言葉を受けても、ふわりと笑うだけ。

 ただ妖精と見紛うような可愛らしい顔を、少しだけ意地の悪いものに変える。 

「任せて、

 ふわっと笑った少女は、可憐な仕草で更に腰を落としてから「では、これで」と言って立ち上がる。

「……人前でそれを言うなよ」
「ふふっ、もちろんですわ」

 殺意に近いぞっとするようなアルビスの視線を受けても、少女は小さく笑って受け流すだけだった。

 そして行きと同じように綺麗な足取りで階段を降りる。リビもそれに続くように、アルビスに礼を取り背を向ける。そのまま2人は会場を横切り消えて行った。





「───……陛下、本当によろしいのでしょうか?」

 全ての側室達が消えた後、シダナはアルビスにだけ聞こえる声量で問いかけた。

「……ああ。ヴァーリは完璧に嫌われているし、ダリアスは少々カレンに対して配慮に欠けるところがある。リュリュは良く立ち回ってくれているが、残念ながら護衛としては力不足だ。他に適任がいない」
「さようですね」

 シダナはすぐさま頷いた。いや、そうせざるを得なかった。

 ただ懸念が払拭したわけではない。不安は決定するより、今の方が大きい。

 しかしシダナ自身もカレンと信頼関係を築いているわけではない。下手をしたら、ヴァーリと自分の立ち位置は同じなのかもしれないとすら思ってしまう。

「案ずるな」 

 渋面をつくるシダナに、アルビスは少しだけ片方の口の端を持ち上げた。そして自身の胸を軽くたたく。

「アイツには枷をつけてある。……まぁ、カレンにそれを伝えたらまた激怒されるかもしれないがな」
「さようですね」

 シダナは今回も即座に頷いた。

 カレンはアルビスを憎んでいる。シダナはアルビスだけに仕える騎士であるが、それを悪いとは思わない。当然だとすら思っている。

 そして、そんなアルビスがカレンに対して心を砕き続けることに対して、無駄なことだとも思っていない。

 自分が仕える主がいつか報われるという希望を持っているからではなく、それを続けている間は主は人間らしい感情を持ち続けていられることを知っているから。

 ただ何の罪もない一人の人間を利用し続けることに、シダナの胸はずっとシクシクと痛み続けている。
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