78 / 142
°˖✧閑話✧˖°(そのうちこそっと見直し修正します)
元の世界での正しい謝罪の方法を教えて差し上げます⑧
しおりを挟む
お通夜を一日間違えて出席してしまったかのような気まずい空気の中、沈黙を破ったのはアルビスだった。
「ヴァーリ、これを騎士の詰所に持っていけ。先日提出した報告書に不備があったやつだ」
「へ?───......あっ、は、はいっ」
書類の束を差し出されたヴァーリは慌てて剣を鞘に戻すと、うやうやしく書類を受け取った。
ま、これでこの一件はおしまいということで。
ちなみにシダナはもう既に机に着席して、これまで通り書類をさばき始めている。だけれど、
「よく、ご辛抱なされましたね」
「......黙れ」
シダナは書類から目を話さずに、そうアルビスに言った。
アルビスを苦虫をかみ潰したような顔にさせたそれには、2つの意味があった。
一つ目は、自分の側近の騎士の危機なのに、カレンをたしなめることをしなかったこと。
二つ目は、愛しい女性と同じ部屋にいて相当嬉しかったはずなのに、それを顔に出さなかったこと。
どちらもアルビスにとったら、相当辛いことだった。でも、その我慢は大正解でもあった。
もし仮に、アルビスが「いい加減にしなさい」とか「その辺にしておいてやれ」とカレンに言っていたら、この状況はもっと最悪なことになっていたから。
カレンはアルビスのことを、心から嫌っている。憎んでいる。
だからきっと、そんなことを言われたらムキになって、必要以上に突っかかっていたはずだ。そしてカレンが激情にかられて、無理難題を吹っ掛けても、アルビスはそれを拒むことができない。
また露骨に嬉しそうな顔をすれば、これもまた同じで。
なのでこれまでのアルビスの非情に思えた行動は、一人の騎士の命を救って、また大切な女性が殺人者にならなくて済んだともいえるのだ。
......とは言っても、これは今回限り通用すること。ヴァーリがまた同じ過ちを繰り返した際には、もうお手上げだったりもする。
そんなアルビスの隠れた功績を知っているのか知らないのか。ヴァーリは書類を片手にガシガシと頭をかく。
そして大きく息を吸って、気持ちを整えるといつも通り聖皇帝の側近権護衛の顔つきに戻し、アルビスに片足を一歩引いて騎士の礼を取った。
ただ扉に向かう途中、こんな本音がポロリと溢れてしまった。
「あーあ......こんなことが一生続くのかぁ。先が思いやられますよ」
いささか乱暴に閉められた扉をアルビスはじっと見つめる。
それは、ヴァーリの乱暴な態度が気に障ったわけでも、政務に疲れて一息ついているわけでもない。
ヴァーリが何の気なしに言ったその言葉に、細い針で胸を刺されたような痛みを覚えたから。
アルビスは知っている。カレンが近い将来、元の世界に戻ることを。そのことはアルビスが予知夢で得た事実で、悲しいことに、彼の予知夢は外れたことがない。ただの一度も。
アルビスの予知夢の中にいたカレンは、今の姿とあまり変わらなかった。つまりそれはそう遠くない未来、彼女との別れを指し示しているということでもある。
だからこうして、カレンがアルビスの私室に足を踏み入れることも、自分の側近たちとじゃれあう(?)のも、宮殿の回廊でばたっり出くわすことすらも、これっきりなのかもしれない。
そうアルビスは、思っているし、覚悟を決めている。
だからこそ、アルビスにとっては、この時間は宝石のようなもの。
そしてそれを一つも零さず心に、魂に、記憶に、刻みつけたいとも思っている。
「シダナ」
「......はい」
「南のラスタリには、栄養価の高い果実があると聞くが、すぐに手に入りそうか?」
その問いにシダナは手を止めて、にこりと笑って頷いた。
「もちろんでございます。明日のカレンさまの朝食に並べるよう手配させていただきます」
「頼む」
「はっ」
政務とは関係ない短い会話を終えた二人は、再び書類を手に取った。
◇◆◇◆ 番外編 おわり ◇◆◇◆
一命を取り留めたヴァーリさんは、2部にも登場しますm(_ _)m
「ヴァーリ、これを騎士の詰所に持っていけ。先日提出した報告書に不備があったやつだ」
「へ?───......あっ、は、はいっ」
書類の束を差し出されたヴァーリは慌てて剣を鞘に戻すと、うやうやしく書類を受け取った。
ま、これでこの一件はおしまいということで。
ちなみにシダナはもう既に机に着席して、これまで通り書類をさばき始めている。だけれど、
「よく、ご辛抱なされましたね」
「......黙れ」
シダナは書類から目を話さずに、そうアルビスに言った。
アルビスを苦虫をかみ潰したような顔にさせたそれには、2つの意味があった。
一つ目は、自分の側近の騎士の危機なのに、カレンをたしなめることをしなかったこと。
二つ目は、愛しい女性と同じ部屋にいて相当嬉しかったはずなのに、それを顔に出さなかったこと。
どちらもアルビスにとったら、相当辛いことだった。でも、その我慢は大正解でもあった。
もし仮に、アルビスが「いい加減にしなさい」とか「その辺にしておいてやれ」とカレンに言っていたら、この状況はもっと最悪なことになっていたから。
カレンはアルビスのことを、心から嫌っている。憎んでいる。
だからきっと、そんなことを言われたらムキになって、必要以上に突っかかっていたはずだ。そしてカレンが激情にかられて、無理難題を吹っ掛けても、アルビスはそれを拒むことができない。
また露骨に嬉しそうな顔をすれば、これもまた同じで。
なのでこれまでのアルビスの非情に思えた行動は、一人の騎士の命を救って、また大切な女性が殺人者にならなくて済んだともいえるのだ。
......とは言っても、これは今回限り通用すること。ヴァーリがまた同じ過ちを繰り返した際には、もうお手上げだったりもする。
そんなアルビスの隠れた功績を知っているのか知らないのか。ヴァーリは書類を片手にガシガシと頭をかく。
そして大きく息を吸って、気持ちを整えるといつも通り聖皇帝の側近権護衛の顔つきに戻し、アルビスに片足を一歩引いて騎士の礼を取った。
ただ扉に向かう途中、こんな本音がポロリと溢れてしまった。
「あーあ......こんなことが一生続くのかぁ。先が思いやられますよ」
いささか乱暴に閉められた扉をアルビスはじっと見つめる。
それは、ヴァーリの乱暴な態度が気に障ったわけでも、政務に疲れて一息ついているわけでもない。
ヴァーリが何の気なしに言ったその言葉に、細い針で胸を刺されたような痛みを覚えたから。
アルビスは知っている。カレンが近い将来、元の世界に戻ることを。そのことはアルビスが予知夢で得た事実で、悲しいことに、彼の予知夢は外れたことがない。ただの一度も。
アルビスの予知夢の中にいたカレンは、今の姿とあまり変わらなかった。つまりそれはそう遠くない未来、彼女との別れを指し示しているということでもある。
だからこうして、カレンがアルビスの私室に足を踏み入れることも、自分の側近たちとじゃれあう(?)のも、宮殿の回廊でばたっり出くわすことすらも、これっきりなのかもしれない。
そうアルビスは、思っているし、覚悟を決めている。
だからこそ、アルビスにとっては、この時間は宝石のようなもの。
そしてそれを一つも零さず心に、魂に、記憶に、刻みつけたいとも思っている。
「シダナ」
「......はい」
「南のラスタリには、栄養価の高い果実があると聞くが、すぐに手に入りそうか?」
その問いにシダナは手を止めて、にこりと笑って頷いた。
「もちろんでございます。明日のカレンさまの朝食に並べるよう手配させていただきます」
「頼む」
「はっ」
政務とは関係ない短い会話を終えた二人は、再び書類を手に取った。
◇◆◇◆ 番外編 おわり ◇◆◇◆
一命を取り留めたヴァーリさんは、2部にも登場しますm(_ _)m
62
お気に入りに追加
3,078
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~
春風由実
恋愛
当代のアルメスタ公爵、ジェラルド・サン・アルメスタ。
彼は幼くして番に出会う幸運に恵まれた。
けれどもその番を奪われて、十年も辛い日々を過ごすことになる。
やっと見つかった番。
ところがアルメスタ公爵はそれからも苦悩することになった。
彼女が囚われた十年の間に虐げられてすっかり心を失っていたからである。
番であるセイディは、ジェラルドがいくら愛でても心を動かさない。
情緒が育っていないなら、今から育てていけばいい。
これは十年虐げられて心を止めてしまった一人の女性が、愛されながら失った心を取り戻すまでの記録だ。
「せいでぃ、ぷりんたべる」
「せいでぃ、たのちっ」
「せいでぃ、るどといっしょです」
次第にアルメスタ公爵邸に明るい声が響くようになってきた。
なお彼女の知らないところで、十年前に彼女を奪った者たちは制裁を受けていく。
※R15は念のためです。
※カクヨム、小説家になろう、にも掲載しています。
シリアスなお話になる予定だったのですけれどね……。これいかに。
★★★★★
お休みばかりで申し訳ありません。完結させましょう。今度こそ……。
お待ちいただいたみなさま、本当にありがとうございます。最後まで頑張ります。
冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~
KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
フィア・リウゼンシュタインは、奔放な噂の多い麗しき女騎士団長だ。真実を煙に巻きながら、その振る舞いで噂をはねのけてきていた。「王都の人間とは絶対に深い仲にならない」と公言していたにもかかわらず……。出立前夜に、片思い相手の第一師団長であり総督の息子、ゼクス・シュレーベンと一夜を共にしてしまう。
宰相娘と婚約関係にあるゼクスとの、たしかな記憶のない一夜に不安を覚えつつも、自国で反乱が起きたとの報告を受け、フィアは帰国を余儀なくされた。リュオクス国と敵対関係にある自国では、テオドールとの束縛婚が始まる。
フィアを溺愛し閉じこめるテオドールは、フィアとの子を求め、ひたすらに愛を注ぐが……。
フィアは抑制剤や抑制魔法により、懐妊を断固拒否!
その後、フィアの懐妊が分かるが、テオドールの子ではないのは明らかで……。フィアは子ども逃がすための作戦を開始する。
作戦には大きな見落としがあり、フィアは子どもを護るためにテオドールと取り引きをする。
テオドールが求めたのは、フィアが国を出てから今までの記憶だった――――。
フィアは記憶も王位継承権も奪われてしまうが、ワケアリの子どもは着実に成長していき……。半ば強制的に、「父親」達は育児開始となる。
記憶も継承権も失ったフィアは母国を奪取出来るのか?
そして、初恋は実る気配はあるのか?
すれ違うゼクスとの思いと、不器用すぎるテオドールとの夫婦関係、そして、怪物たちとの奇妙な親子関係。
母国奪還を目指すフィアの三角育児恋愛関係×あべこべ怪物育児ストーリー♡
~友愛女王爆誕編~
第一部:母国帰還編
第二部:王都探索編
第三部:地下国冒険編
第四部:王位奪還編
第四部で友愛女王爆誕編は完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる