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一部 夜会なんて出たくありませんが......何か?

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 佳蓮はこの世界に来てからずっとずっと不満を抱えていた。

 いいと思えることなんて何一つもなかった。
 嬉しいと感じたことなんて一度もなかった。

 いつもいつも理不尽なことを言われ、一方的な価値観を押し付けられて、ずっと「いい加減にして!」と叫びたかった。

 でも言ったところで、この世界の人間には響かないから諦めるしかなかった。

 佳蓮はこの世界の人達の言葉に、耳を傾けなくていいと思っている。なぜなら一方的に拉致され、監禁生活を強いられ、平凡で穏やかだった生活を奪われた被害者なのだから。

 そうしたのはヴァーリではない。アルビスだ。一介の騎士に怒りをぶつけるのは筋違いなのかもしれない。

 でも、あたかも全ての非は佳蓮にあると言いたげなヴァーリの言動に、我慢ができなかった。アルビスに同情する彼を許せなかった。

「だったら……」

 佳蓮は自分でもびっくりするほどの低い声で呟いた。

 沸騰しそうなほどの怒りで、ぎゅっと握った拳は小刻みに震えている。

「なんですか?お嬢さん。もっと大きな声で言ってくださいよ」 

 嘲笑を浮かべるヴァーリは、佳蓮の呟きに怒りが込められていることに気付いている。

 その証拠に「その喧嘩買ってやるよ」と言いたげに目つきが険しくなっている。

「ほら、早く言ってくださいよ」
 
 剣を孕んだその茶褐色の瞳を細めてヴァーリはニヤリと笑った。

(私、とことん舐められているんだ)

 ヴァーリは、わざとこんな態度を取っている。

 そしてこちらが怒り、泣き叫んだところで、慰めながら懐柔しようとしているのだ、きっと。それに気付いた途端、佳蓮は叫んだ。

「だったら、返品すればいいじゃないっ」

 ずっと抱えていた気持ちを吐き出したら、もう止まらなかった。 

「私のこと、気に入らないんでしょ?!っていうか、私だって好きでここに居るわけじゃないっ。誰があんた達の思い通りになるもんかっ」

 まるで癇癪を起した子供にように地団太を踏みながら、佳蓮は怒鳴りつける。

「皇帝陛下は偉いんでしょ?何をしたって許されるんでしょ!?なら、私なんかとっとと返品して、次の他の女の子を拉致ってくればいいじゃないっ」

 佳蓮はヴァーリの胸倉を掴んで揺さぶった。

 その勢いに飲まれていたヴァーリだけれど、拉致という単語は聞き捨てられず、佳蓮の肩を乱暴に掴んだ。

「拉致って……なんてことを言うんだ。黙って聞いてりゃあ、いい加減にっ──」
「あのね、私。毎日毎日、くだらないことばかり押し付けられて……ウザいの、よっ」

 ヴァーリの言葉に被せるように声を荒げた佳蓮は、これまでの鬱憤を晴らすかのように片足を振り上げた。

 それは、ヴァーリの股間に命中した。

「……痛っ」

 苦痛に呻くヴァーリを、佳蓮は渾身の力で押しのける。

「気やすく触んないでよね」

 汚いもの見る目つきで言い捨てて、佳蓮はドレスの裾を両手で掴んで走り出した。
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