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被害者の仮面を被った、あなた。※またの名を【ご褒美事件】
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後に語られる【夜会事件】は、グレーゲルとユリシアがよりにもよってというタイミングで意気投合したため、不完全燃焼で幕を下ろした。
それから再び淡々と平和な日々が続いている。
ただしそれは、表面上だけの話。己の立場を誤認識したままのユリシアはグレーゲルとはもちろん、モネリとアネリーすらからも距離を取り、自分の殻に閉じこもっている。
==================
親愛なるユリシア嬢
ーーというわけで、しばらくの間
私を匿ってください。
もうアルダードの傍にいられません。
貴方なら、きっと私のこの苦しみを
理解してくれると信じてます。
お願いです。助けてください。
もう貴方しか頼れる人がいないのです。
フリーシア・ヴァオル
===================
ユリシアは悲痛な叫びが聞こえてきそうな文面を何度も読み返し、溜息を吐いた。
手紙の送り主はフリーシア・ヴァオル。義兄アルダードの婚約者。
リンヒニア国の貴族令嬢は嫡男と婚約すると、次期女主人の教育を受けるため相手の邸宅で挙式まで過ごすのが習わしだ。
ダリヒ家は侯爵位でアルダードは嫡男。例にもれず、フリーシアも慣例に従いダリヒ邸に入った。
その結果、女主人としての教育を受けさせてもらえるどころか、かつての自分と同じように彼に虐げられる日々を過ごしている……らしい。
知らない間に起きた、赤の他人と一生関わり合いたくない人間との出来事を切々と語られたところで、ユリシアはただただ困惑するばかり。
そりゃあフリーシアに同情する気持ちはある。とんだ不幸だと思うし、今すぐ彼の手の届かないところに逃げて欲しい。
でも自分が手助けするとなると話は別だ。
だってユリシアには、なんの力もない。マルグルス国の大公爵の婚約者という立ち位置でいるが、それは期間限定。近い将来、この席は別の人に明け渡すことが決まっている。
なにより自分が貢ぎ物としてマルグルス国に送られたのは、リンヒニア国の貴族なら誰もが知っていること。
(……そんな私に、助けを求めるなんてよっぽど追い詰められているのかなぁ)
貴族令嬢は親に従うもの。娘の結婚は、家門を繁栄させる駒の一つに過ぎない。嫌だとか辛いという娘の感情は無視される。
これがリンヒニア国の貴族社会の常識で、不幸な結婚をする令嬢はフリーシアだけじゃない。
そんなことを考えながら、ユリシアは手紙をもう一度読み返して溜息を吐く。手紙を受け取ってかれこれ数日。この動作を繰り返しているが、名案なんて浮かぶわけもない。
ちょっと前ならモネリとアネリーに相談することもできた。
でもどうやって罪を償えば良いのかわからない今、二人に助言を求めるのは自分勝手な気がして、ユリシアは自分の胸の内で悩み続けている。
ちなみにここはリールストン邸の本邸のユリシアの私室。一日の大半を過ごしていた別邸には、夜会以降足を向けていない。快適に過ごすことが申し訳なくて。
「見なかったことにするのは……ーーさすがに駄目だよね。うん、駄目だ」
いっそ無情になりきることができれば気が楽になるのだが、残念ながらユリシアは無駄に情が厚い。
ついでに言うと、ユリシアが引きこもりになった最大の原因であるエイダンは、中途半端な話で終わったくせに、一仕事終えた気分で今日も元気に王政に励んでいる。
……という事情で、ユリシアが悩みの海に沈みそうになっていた。
でもここで私室の扉がノックされ、入室を促せば顔馴染みの侍女二人が顔を出した。
「……あの、何かご用がありましたか?」
他人行儀に尋ねるユリシアを見て、二人はちょっとムッとしたような、それでいて悲しそうな表情をした。
それから再び淡々と平和な日々が続いている。
ただしそれは、表面上だけの話。己の立場を誤認識したままのユリシアはグレーゲルとはもちろん、モネリとアネリーすらからも距離を取り、自分の殻に閉じこもっている。
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親愛なるユリシア嬢
ーーというわけで、しばらくの間
私を匿ってください。
もうアルダードの傍にいられません。
貴方なら、きっと私のこの苦しみを
理解してくれると信じてます。
お願いです。助けてください。
もう貴方しか頼れる人がいないのです。
フリーシア・ヴァオル
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ユリシアは悲痛な叫びが聞こえてきそうな文面を何度も読み返し、溜息を吐いた。
手紙の送り主はフリーシア・ヴァオル。義兄アルダードの婚約者。
リンヒニア国の貴族令嬢は嫡男と婚約すると、次期女主人の教育を受けるため相手の邸宅で挙式まで過ごすのが習わしだ。
ダリヒ家は侯爵位でアルダードは嫡男。例にもれず、フリーシアも慣例に従いダリヒ邸に入った。
その結果、女主人としての教育を受けさせてもらえるどころか、かつての自分と同じように彼に虐げられる日々を過ごしている……らしい。
知らない間に起きた、赤の他人と一生関わり合いたくない人間との出来事を切々と語られたところで、ユリシアはただただ困惑するばかり。
そりゃあフリーシアに同情する気持ちはある。とんだ不幸だと思うし、今すぐ彼の手の届かないところに逃げて欲しい。
でも自分が手助けするとなると話は別だ。
だってユリシアには、なんの力もない。マルグルス国の大公爵の婚約者という立ち位置でいるが、それは期間限定。近い将来、この席は別の人に明け渡すことが決まっている。
なにより自分が貢ぎ物としてマルグルス国に送られたのは、リンヒニア国の貴族なら誰もが知っていること。
(……そんな私に、助けを求めるなんてよっぽど追い詰められているのかなぁ)
貴族令嬢は親に従うもの。娘の結婚は、家門を繁栄させる駒の一つに過ぎない。嫌だとか辛いという娘の感情は無視される。
これがリンヒニア国の貴族社会の常識で、不幸な結婚をする令嬢はフリーシアだけじゃない。
そんなことを考えながら、ユリシアは手紙をもう一度読み返して溜息を吐く。手紙を受け取ってかれこれ数日。この動作を繰り返しているが、名案なんて浮かぶわけもない。
ちょっと前ならモネリとアネリーに相談することもできた。
でもどうやって罪を償えば良いのかわからない今、二人に助言を求めるのは自分勝手な気がして、ユリシアは自分の胸の内で悩み続けている。
ちなみにここはリールストン邸の本邸のユリシアの私室。一日の大半を過ごしていた別邸には、夜会以降足を向けていない。快適に過ごすことが申し訳なくて。
「見なかったことにするのは……ーーさすがに駄目だよね。うん、駄目だ」
いっそ無情になりきることができれば気が楽になるのだが、残念ながらユリシアは無駄に情が厚い。
ついでに言うと、ユリシアが引きこもりになった最大の原因であるエイダンは、中途半端な話で終わったくせに、一仕事終えた気分で今日も元気に王政に励んでいる。
……という事情で、ユリシアが悩みの海に沈みそうになっていた。
でもここで私室の扉がノックされ、入室を促せば顔馴染みの侍女二人が顔を出した。
「……あの、何かご用がありましたか?」
他人行儀に尋ねるユリシアを見て、二人はちょっとムッとしたような、それでいて悲しそうな表情をした。
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