親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から愛を押し付けられる

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
62 / 69
全てを失くしてしまった【冬】 けれど……

1

しおりを挟む
 自警団の手によって連行されたレイドリックとエリーゼは、そのまま警護本部にて厳しい取り調べを受けることになった。もちろんアラバも同じく。

 アラバは麻薬の栽培をしていたわけではない。
 だが、生成された麻薬を入手して、自身が営む娼館で売りさばいていたことが判明した。また、娼婦に対して強制的に使用していたこともわかった。

 この国において麻薬は、栽培も密売も重い罪となる。そのため、アラバは弁明の機会すら与えられることなく、断頭台に送られる日を待つ身となった。

 対してレイドリックとエリーゼはというと、未だ刑が確定していない。

 二人は麻薬の栽培については肯定した。誰の指示でそうしたかも素直に答え、継続している捜査に協力する態度を取っている。

 けれど一つだけ二人は嘘の供述をしている。それはとても厄介なもの。

【マリアンヌも麻薬の栽培に協力していた】と、口を揃えて主張をしているのだった。

 そのためマリアンヌは、被害者でありながら容疑者となってしまい、連日警護本部にて取り調べを受けることになってしまった。

 けれどマリアンヌは、真実を語ることはせず始終黙秘を続けた。

 麻薬に関わるすべては犯罪であり、それは重い罪となる。
 だが、さすがに名門侯爵家の令嬢に対して、真偽を確かめないまま刑を執行することはできない。

 その結果マリアンヌは、罪を犯した貴族の為に建てられた”茨の塔”に幽閉されることになってしまった。






 初冬の冷たく清潔な空気が、爽かな陽光を含んで窓に映る空を彩っている。

 マリアンヌは窓辺に足を向け、空を見上げた。

 罪を犯した貴族が幽閉されるここは高い位置にあるせいで、窓に鉄格子はない。落下すれば即死だからだ。そもそも鍵穴は潰されているので、窓を開けることは叶わないけれど。

 そのおかげで、ガラス越しに見える景色を遮るものは何もない。濃い青を独り占めしているような気持ちになる。

 けれど浮かれることは無かった。それどころか、広々とした空がロゼット家が統治する領地を思い出させる。後ろめたさに胸が締め付けられるように痛んだ。

 ───……もう両親の耳に入ってしまっているのだろうか。

 マリアンヌは、窓ガラスに額を当て、深く息を吐いた。

 兄であるウィレイムが家督を継いだのは、20歳の頃だった。
 妻を娶ったわけでも、前当主が死去したわけでもないのに、その若さで当主となるのは異例だと、当時は随分社交界で話題になった。

 もちろんウィレイムが優秀で、前当主だった父が後を継がせても問題ないと判断した結果だから、後ろ指を差される筋合いは無い。

 ただ急いだのは事実で、そうしなければならない理由があった。

 マリアンヌの母親は病弱であり、また精神的に強い人間ではなかった。そのため、王都で生活することが難しくなってしまったのだ。

 だからウィレイムが早々に家督を継いだ。そして現在マリアンヌの両親は、ロゼット家の領地で隠遁生活を送っている。

 手紙を交わす頻度は多いが、滅多に会うことができない両親が、今の自分を知ったらさぞや嘆くだろう。母は心労のあまり寝込んでしまうかもしれない。

 それに兄に対しても、迷惑をかけていることはわかっている。こうして黙秘を続けることは、兄の立場を悪くしているということも。

「……ごめんなさい」

 マリアンヌは、強く目を閉じて謝罪した。

 でも、申し訳ないという気持ちと同じくらい、まだ無言を貫きたいという想いもある。

 それが単なるワガママで、子供が駄々をこねているのと同じだとわかっている。それでもマリアンヌは、自分の無罪を主張する気にはなれなかった。

 ──……ギィ

 窓辺で立ちすくむマリアンヌの背後の扉が開く。

 この部屋は一応やんごとなき身分の者が使う部屋として認識されているので、出入口は鉄格子ではなく扉となっている。

 マリアンヌは、視線をずっと窓の外に向けたままでいたかった。けれど、そうはいかない。
 
 ここに立ち入ることができる人間は限られている。食事を運んでくる衛兵と、いい加減無実だと主張しろと訴える警護団の偉い人。そして、兄。

 ただ今はまだ午前中であり、マリアンヌは既に朝食を終えている。昼食にはまだまだ時間がある。

 と、なると、この部屋に足を踏み入れる人物は残りの2名のどちらかか。

 そんなことをぼんやりと考えながら、マリアンヌは振り返った。

 けれど、入ってきた人物はマリアンヌの予想とは違った。そして一人ではなく、二人いた。





 この国で尊き存在である御仁と、この国でもっとも大きな権力を握る官僚であった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】 (ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』 ※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています! 【あらすじ】 架空の国、ジュエリトス王国。 人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。 国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。 そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。 数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた! 仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。 さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す! まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います! 恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり) 応援よろしくお願いします😊 2023.8.28 カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。 本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨

侯爵家の当主になります~王族に仕返しするよ~

Mona
恋愛
第二王子の婚約者の発表がされる。 しかし、その名は私では無かった。 たった一人の婚約候補者の、私の名前では無かった。 私は、私の名誉と人生を守為に侯爵家の当主になります。 先ずは、お兄様を、グーパンチします。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...