上 下
36 / 37
そんなのってアリ?!

12

しおりを挟む
「あのぉ……アサギさん。さすがにそろそろ私、戻らないと女官長に怒られるんだけど……」

 おずおずと窺うようなロッタの言葉に、アサギはようやっと笑いを引っ込めた。

 次いで、「そうだな」と言いながらロッタの手を握る。逃亡防止の為に。

 結局グダグダな流れになってしまったせいで、アサギはロッタから告白─── というより求婚の返事を聞いていない。

 ま、どれだけロッタが嫌と言っても、アサギはもう待たない。力づくで奪う気でいる。

 そのために現ムサシ国王に頭を下げて、代々王家に伝わる懐妊秘薬を手に入れたのだし、異国の平民を妻に迎えるための面倒くさいアレコレを片付けたのだ。

 しかもアサギは、ちゃっかりロッタの父親と結婚の許しを得るために会っている。そして、許可を得る代わりにしっかり殴られてきた。

 涙目で『大事な娘をやるんだから、一回だけ殴らせろ』と凄んできたロッタの父親の手は、異国の王子を殴る覚悟からかブルブルと震えていた。

 もちろんアサギは『私は今、あなたの娘さんを奪いに来た不埒なただの男です。ご遠慮なくどうぞ』と言って、自ら頬を差し出した。

 結果として予想以上に強く殴られたけれど、アサギは当然のことだと思っている。

 これは、ロッタ宛ての手紙には書かれていないことであり、アサギもわざわざ伝えるつもりは無い。

 ただ……そんなネタで気を引かなくても、実はアサギはロッタが嫌と言えないとっておきの切り札を持っていたりもする。
 
 王妃に対して一泡吹かせる策を与えた代金は、後払いということになっている。

 だがらアサギは、ロッタの残りの人生を請求すれば良いだけの事。

 どうあっても極刑になる運命を回避したのだから、それくらい安いモノだろう。しかも、家計簿を付ける必要のない、三食昼寝付きの好待遇ときたものだ。

 しかし、それは奥の手であり、できることならそんな汚い手を使いたくはなかった。

 アサギはロッタの意思で己を選んで欲しかった。

「なあ、ロッタ。改めて言うけど、俺と結婚してくれ」
「……っ?!」
「俺はロッタの事が好きだ。ただ俺はムサシ国の王子だから、ロッタが王族の一員になる運命は避けられない。でも全力で守るし、絶対に幸せにする。だから、頼む」

 ぎゅっとロッタの手を握って、ありったけの想いを伝えたアサギだったが、待てど暮らせど返事は無い。

 ロッタは真っ赤な顔をして、俯いてしまっている。

 これは脈ありと考えて良いのだろうか。それとも、ただ単に追い詰められて泣き出す寸前なのだろうか。

 これまで手に取るようにロッタの思考を読めていたアサギであるが、今日に限ってはそっちの思考は恐ろしい程にポンコツ化している。

「……アサギさん。あのですね」
「なんですか?ロッタさん」

 空いている方の手をロッタの膝に乗せながら、アサギは顔を覗き込む。

「私……急にアサギさんが王子様になって、好きだと言われて大変混乱しているんです」
「そうか。小出しにしといたほうが良かったか?」
「うーん……。それはそれで一個一個、その都度処理していかないといけなかったので、やっぱりまとめて教えてもらえて良かったと……」
「そりゃあ、良かった。で、ロッタ、今の気持ちはどんな気持だ?驚いた以外になんか無いのか?」
「あります。8割驚いていますが、残りの一割は……う、嬉しいです。あと最後の一割は……一生アサギの傍にいたいって、私も思っています」

 最後はそよ風よりも小さな声だった。

 けれど、アサギはしっかりと聞き取った。そして、気付けば自分の唇は、ロッタの唇に触れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

【完結】旦那様の幼馴染が離婚しろと迫って来ましたが何故あなたの言いなりに離婚せねばなりませんの?

水月 潮
恋愛
フルール・ベルレアン侯爵令嬢は三ヶ月前にジュリアン・ブロワ公爵令息と結婚した。 ある日、フルールはジュリアンと共にブロワ公爵邸の薔薇園を散策していたら、二人の元へ使用人が慌ててやって来て、ジュリアンの幼馴染のキャシー・ボナリー子爵令嬢が訪問していると報告を受ける。 二人は応接室に向かうとそこでキャシーはとんでもない発言をする。 ジュリアンとキャシーは婚約者で、キャシーは両親の都合で数年間隣の国にいたが、やっとこの国に戻って来れたので、結婚しようとのこと。 ジュリアンはすかさずキャシーと婚約関係にあった事実はなく、もう既にフルールと結婚していると返答する。 「じゃあ、そのフルールとやらと離婚して私と再婚しなさい!」 ……あの? 何故あなたの言いなりに離婚しなくてはならないのかしら? 私達の結婚は政略的な要素も含んでいるのに、たかが子爵令嬢でしかないあなたにそれに口を挟む権利があるとでもいうのかしら? ※設定は緩いです 物語としてお楽しみ頂けたらと思います *HOTランキング1位(2021.7.13) 感謝です*.* 恋愛ランキング2位(2021.7.13)

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

【完】前世で子供が産めなくて悲惨な末路を送ったので、今世では婚約破棄しようとしたら何故か身ごもりました

112
恋愛
前世でマリアは、一人ひっそりと悲惨な最期を迎えた。 なので今度は生き延びるために、婚約破棄を突きつけた。しかし相手のカイルに猛反対され、無理やり床を共にすることに。 前世で子供が出来なかったから、今度も出来ないだろうと思っていたら何故か懐妊し─

初夜で白い結婚を宣言する男は夫ではなく敵です

編端みどり
恋愛
政略結婚をしたミモザは、初夜のベッドで夫から宣言された。 「君とは白い結婚になる。私は愛している人が居るからな」 腹が立ち過ぎたミモザは夫家族を破滅させる計画を立てる。白い結婚ってとっても便利なシステムなんですよ? 3年どうにか耐えると決意したミモザだが、あまりに都合の良いように扱われ過ぎて、耐えられなくなってしまう。 そんなミモザを常に見守る影が居て…。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

処理中です...