王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
26 / 37
そんなのってアリ?!

しおりを挟む
「いたいた! 探したよ、ロッタ」
「...... あー、アサギかぁ」

 振り返ったロッタは声と同じくテンションが低かった。

「ん? どうしたの?」

 不思議そうに首を傾げるアサギに、ロッタは溜め息を吐くことで返事とする。

 そうすれば、ますますアサギは首の角度を深くした。

「陛下からの褒賞金が少なかったのかい? それとも女官長に叱られた? ...... まさか、この前の一件で誰かから嫌がらせでも受けてる?」

 最後の質問は、ぞっとするほど低い声だった。

 けれどロッタは怯えることなく、首を横に振る。

「いや、全部違う」

 陛下からの褒賞金は、思わず頬が緩んでしまうほどの大金だったし、女官長が怒りっぽいのは今に始まったことじゃない。

 それにあれだけ騒いでいたメイド達は、夜伽を終えた後は誰もことの詳細を聞いてこない。何事のなかったかのように、ロッタに接している。夜伽の「よ」の字も出てこないことに不自然さを覚えるほどに。

 しかも王妃が懐妊してからは、妙にメイド仲間達はロッタに優しい。やれ、お菓子をあげるとか。やれ、当番を代わってあげるとか。

 腫れ物に触るような対応に、正直薄気味悪さすら感じてしまう毎日なのだ。

 でもこれが気落ちしている原因では無い。

「じゃあ、何でそんなに元気がないんだ? もしかして体調でも悪いのか? ならこんなところに居たら駄目じゃないか」

 しっかり防寒着を着込んでいるアサギは、慌てて自分のコートを脱いでロッタの肩に掛けようとする。

 それをロッタは片手で制して口を開いた。

「なんかねぇ、元気がないのは認めるけど、それは気持ち的な部分だから安心して」
「うん、そっか。ひとまず安心した。で、なんで元気が無いの?」
「それがわからなくって......」
「そりゃあ、困ったなぁ」

 肩を落として項垂れたロッタを目にして、アサギは困ったように眉を下げた。

 けれどすぐに「ここは寒いからあっちで話そう」と言って、ロッタの手を引いて歩きだす。

 手袋越しにアサギの熱が伝わり、かじかんでいた指先が温まる。大きな手にすっぽりと包まれて、ロッタはアサギが異性なのだと改めて気付いてしまった。

 そして、ここでもう一つ気付いてしまった。

 連日連夜、もやもやとしていたその正体が何かということを。

「私、わかった」
「はぁ? なにが?」

 足を止めて宣言したロッタに、半拍遅れてアサギも足を止める。

 次いで首を捻って背後にいるロッタを見つめた。

「あのね、私がずっともやもやしてたのは、アサギのことを考えていたからだ」
「......っ」

 不意を突かれたアサギは、思わず手の甲で口許を隠した。

 でも赤面する頬までは、隠すことができなかった。 
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!

みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。 結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。 妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。 …初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】ただあなたを守りたかった

冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。 ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。 ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。 両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。 その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。 与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。 令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。 ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。 だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。 領地にいたティターリエが拐われたというのだ。 どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。 婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。 表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。 ただティターリエの身を案じて。 そうして明らかになっていく真実とはーーー

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...