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目にもの見せてくれるわっ

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 王宮の裏庭は、メイド達にとって恰好のサボり場所でもある。

 今は、やれ掃除だ、洗濯だ、朝食の片付けだ、客室の準備だと、慌ただしい時間を過ごしているが、それもそろそろ落ち着く時間だ。

 アサギの首には王宮に立ち入ることができる紋章がぶら下がっている。
 でも、王宮の裏側まで足を踏み入れて良いという許可は下りていない。

「ロッタ、悪いけど場所を変えよう」
「……ん」
「ロッタ聞いている?」
「……ん」
「おーい、ロッタ」
「……んん」

 駄目だこりゃ。

 アサギは肩をすくめた。ロッタは思考の樹海を彷徨っている。当分戻ってくることはできないだろう。

 とはいえ、この話をうやむやにして去る気は無い。
 幸い何度も王宮に足を向けている身だから、人の流れはそこそこ詳しいし、地図も頭に入っている。

 だから強硬手段でロッタを担いで、もっと人気の無い場所に移動するしかないか。

 一方的に結論付けたアサギは、移動場所を幾つか候補に挙げ、最短ルートを頭の中で描く。そしてロッタの背後に回り、そっと持ち上げようとした。

 でも、その瞬間───

「いや、無いわ。それは無いわ」

 というロッタの呟きが耳に入って、アサギは手を止めた。

「うん。で、どうしたい?」

 長い付き合いだし、ロッタとは違う意味で好きという感情を持っているアサギは、主語が無い呟きでも、ちゃんと理解することできる。

 だからロッタの正面に回ったアサギは「何が無いの?」という無駄な質問を省いて、続きを促した。

「私、死にたくない」
「そうだよね」
「お父さんも、お母さんも、弟も、死んでほしくない」
「そりゃ、そうだろうね」
「……抱かれたくない」
「うん」
「……夜伽なんて……し、したくない」
「うん」

 だんだん声が小さくなるロッタに相反して、そうだそうだ、もっと言えと、アサギの頷きは大きくなる。

 そして、ついうっかり「他には?」とせっついてしまった。途端にロッタの表情が曇り俯いてしまう。

 すぐにアサギは、しまったと内心舌打ちしたけれど、それは杞憂に終わった。アサギの一言はロッタの背を押す形になった。

「私、王妃に一泡吹かせたい」
「っぷ」

 毅然と顔を上げてきっぱりと言い切ったロッタを待っていたのは、あろうことが小馬鹿にした笑いだった。

「……アサギ、酷い」

 勇気を振り絞って紡いだ言葉が、こんな形なんてあんまりだ。

 ロッタは思わずアサギをジト目で睨んでしまった。

「ごめん。あとロッタ……お前、可愛いな」

 ぽんと頭に手を置かれ謝罪の言葉が降ってきたと思ったら、場違いな言葉まで耳に入ってきてロッタは目を丸くする。

「な、何を言って」
「うん。可愛い。可愛すぎる」
「だから……今は、そんなこと言ってる場合じゃなくって」
「一泡吹かせたいだって……なんだそれ、マジ可愛い」
「……はぁ」

 手の甲を口元に当て笑いを堪えるアサギは、この後何度も「可愛い」と言いながら、ロッタの頭を撫でた。
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