上 下
8 / 37
目にもの見せてくれるわっ

3

しおりを挟む
 アサギは、ロッタをチラリと見る。

 長い付き合いで彼女が今どんな気持ちなのかは、聞かなくてもだいたいわかる。

 これ以上無いほど落ち込んでいる。いや、追い詰められているといったほうが正解だ。

 王宮メイドは当たり前だが女性だ。そして古今東西、女性が集まれば何かと陰湿な揉め事がある。それは水面下で行われることが殆どで、表沙汰になることはめったに無い。

 ロッタは身分を偽ってこの王宮に入った。
 女ばかりの職場では、そのせいで気苦労も多いだろう。
 ……いやまて、気苦労ならまだ可愛いが、イジメにでもあっているのではないか。

 それとも、考えたくはないが色恋沙汰で悩んでいたりとか。具体的に言えば、身分違いの男を好きになってしまった……とか?

 再びアサギはロッタを見る。
 一房溢れたラベンダー色の横髪が、少しやつれた頬にかかって妙に艶めかしい。

 それを食い入るように眺めた結果、アサギは後者の方に結論付けた。

「ロッタ、なにかあったか?」
「まさか。何も」

 案の定、ロッタは誤魔化しやがった。

 アサギは内心舌打ちする。しかし、今日は絶対に引く気は無い。

「そっか。ところでさ、ロッタのご両親と弟君からの手紙預かってきたんだけど、さ」
「本当!?ありがとう───……って、何すんのよ!」

 差し出された手紙を受け取ろうとした瞬間、ひょいとそれはロッタの視界から消えた。

 アサギが手紙を持ち上げたのだ。しかも長身の彼が腕を高々と上げてしまえば、ロッタは背伸びしても、飛び跳ねても届かない。

「地味な嫌がらせはやめてよね」
「やだね」
「なっ。……アサギ、いつからそんな性格になったのよ。いや……前からか。ああっ、そんなのどぉーだって良いっ。とにかく手紙! 私には今、癒やしが───」

「必要なんだよね。こんな紙切れに縋りたいほど」

 ロッタの言葉を引き継いだアサギは腕を降ろすと、手にした手紙を突き出した。

 でもロッタは受け取らない。

 バツが悪そうにアサギから視線を逸らして下を向く。

「ロッタ、何があったか話して」
「……アサギに話したところで……あっ、別に何でもない」
「どうにもならないかは、こっちが決める。とにかく話して」

 強い口調で言われ、ロッタは観念した。

 それに本当は、誰か……信頼できて自分の話にちゃんと耳を傾けてくれる人に聞いて欲しかったのだ。

「実はね、私……」
「うん」

 優しく続きを促してくれるアサギに勇気付けられ、ロッタは本題を切り出した。

「私、8日後に陛下の夜伽を務めることになったの」

 瞬間、アサギは半目になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

【完結】私がいる意味はあるのかな? ~三姉妹の中で本当にハズレなのは私~

紺青
恋愛
私、リリアンはスコールズ伯爵家の末っ子。美しく優秀な一番上の姉、優しくて賢い二番目の姉の次に生まれた。お姉さま二人はとっても優秀なのに、私はお母さまのお腹に賢さを置いて来てしまったのか、脳みそは空っぽだってお母様さまにいつも言われている。あなたの良さは可愛いその外見だけねって。  できる事とできない事の凸凹が大きい故に生きづらさを感じて、悩みながらも、無邪気に力強く成長していく少女の成長と恋の物語。 ☆「私はいてもいなくても同じなのですね」のスピンオフ。ヒロインのマルティナの妹のリリアンのお話です。このお話だけでもわかるようになっています。 ☆なろうに掲載している「私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~」の本編、番外編をもとに加筆、修正したものです。 ☆一章にヒーローは登場しますが恋愛成分はゼロです。主に幼少期のリリアンの成長記。恋愛は二章からです。 ※児童虐待表現(暴力、性的)がガッツリではないけど、ありますので苦手な方はお気をつけください。 ※ざまぁ成分は少な目。因果応報程度です。

伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。

冬吹せいら
恋愛
エイリャーン伯爵家に仕えるメイド、アンリカ・ジェネッタは、日々不満を抱きながらも、働き続けていた。 ある日、不当に給料を減らされることになったアンリカは、辞職を決意する。 メイドでなくなった以上、家の秘密を守る必要も無い。 アンリカは、令嬢の浮気を、密告することにした。 エイリャーン家の没落が、始まろうとしている……。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

【完】前世で子供が産めなくて悲惨な末路を送ったので、今世では婚約破棄しようとしたら何故か身ごもりました

112
恋愛
前世でマリアは、一人ひっそりと悲惨な最期を迎えた。 なので今度は生き延びるために、婚約破棄を突きつけた。しかし相手のカイルに猛反対され、無理やり床を共にすることに。 前世で子供が出来なかったから、今度も出来ないだろうと思っていたら何故か懐妊し─

処理中です...