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ああ、なるほどね……
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手汗が滲んだ掌では、ホウキをただ握っているだけなのに、異常に滑ってしまう。
しかし、うっかり落としてしまったら目も当てられない状況になりそうだ。
だからロッタは、現実逃避の意味も含めてホウキを握り続けることに全神経を集中させる。
そんな最中マルガリータと取り巻き女の内緒話は、ひっそりと終わっていた。
「あなたお金が欲しかったのね」
「は?」
すかさずロッタが間抜けな声を出したけれど、マルガリータの元にはなぜか届かない。
ただ、うっかりホウキを取り落としてしまって、カタンとこの場に合わない不快な音だけが響く。
「ごめんあそばせ。わたくしったら気付くことができなくて……」
わざとらしく肩を落とすマルガリータに、ロッタは無言のまましゃがんでホウキを取ろうとした。
けれど、ロッタが膝を付いた瞬間、取り巻き女たちはまるで見計らったかのように次々と口を開く。
「いえ、王妃は卑しい下賤の者の考えなど、知らなくて良いことですわ」
「そうでございますよ。お金お金と浅ましい。見ているだけで不快になりますわ」
「本当ですわ。そもそも王妃を強請るという行為こそ、不敬罪だというのに……」
「そうですわよ。王妃にお声掛けいただけたことだけでも、有難いことなのに。それに加えて、金銭の要求などっ」
眉を潜めながら忙しく口を動かす取り巻き女たちを見つめ、ロッタは唖然とした。
神に誓って、お金が欲しいなど一言も言っていない。
なのに、なぜ自分はこうまで責められるのであろうか。
つくづくやんごとなき人種は、思考回路がぶっ飛んでることをロッタは実感した。
さりとて、ここで反論するなど愚の骨頂。
こんな屈辱を与えられたとしても、17年の人生に幕を降ろすのは惜しい。
ただ、やいのやいのと騒ぐこの取り巻き女たちは、いつ口を閉じるのだろうか。
ロッタはあまりの状況に虚ろな目をしながら、ホウキを拾い上げて時が過ぎるのをじっと待つ。そうすれば、突然、パンッと小さく手を打つ音がした。
音を鳴らしたのはマルガリータで、瞬時に、この東屋は水を打ったように静まり返った。
「ねえ、ロッタ。なら、こうしましょう。あなたが無事陛下の子を宿したら、少しくらいのお小遣いを差し上げるわ。それなら、良いでしょ?」
ロッタを見下ろすマルガリータは、まるで名案と言わんばかり微笑んだ。
そして、そのままくるりと身体の向きを変えて、取り巻き女たちに向け口を開く。
「さて、と。行きましょうか。ねえ、皆さん子が生まれたら、どんな産着を着せようかしら?」
「そうですわね、やはり真っ白なレースが一番でございますわね」
「ふふっ。わたくしもそう思いますわ。でも陛下によく似た男の子なら、水色も捨てがたいわ」
「さすがですわ、王妃。きっと陛下もお喜びになるでしょう」
賛辞を述べる取り巻き女たちを見て、ロッタは二の腕に鳥肌がたった。
まるで、マルガリータが出産するような口ぶりで、そこに代理出産をするという前提は無かった。
───……ああ、なるほど。私が使い捨てにされることは決定なんだ。
ロッタは至極冷静に、自分の置かれた現状を受け止めた。
しかし、うっかり落としてしまったら目も当てられない状況になりそうだ。
だからロッタは、現実逃避の意味も含めてホウキを握り続けることに全神経を集中させる。
そんな最中マルガリータと取り巻き女の内緒話は、ひっそりと終わっていた。
「あなたお金が欲しかったのね」
「は?」
すかさずロッタが間抜けな声を出したけれど、マルガリータの元にはなぜか届かない。
ただ、うっかりホウキを取り落としてしまって、カタンとこの場に合わない不快な音だけが響く。
「ごめんあそばせ。わたくしったら気付くことができなくて……」
わざとらしく肩を落とすマルガリータに、ロッタは無言のまましゃがんでホウキを取ろうとした。
けれど、ロッタが膝を付いた瞬間、取り巻き女たちはまるで見計らったかのように次々と口を開く。
「いえ、王妃は卑しい下賤の者の考えなど、知らなくて良いことですわ」
「そうでございますよ。お金お金と浅ましい。見ているだけで不快になりますわ」
「本当ですわ。そもそも王妃を強請るという行為こそ、不敬罪だというのに……」
「そうですわよ。王妃にお声掛けいただけたことだけでも、有難いことなのに。それに加えて、金銭の要求などっ」
眉を潜めながら忙しく口を動かす取り巻き女たちを見つめ、ロッタは唖然とした。
神に誓って、お金が欲しいなど一言も言っていない。
なのに、なぜ自分はこうまで責められるのであろうか。
つくづくやんごとなき人種は、思考回路がぶっ飛んでることをロッタは実感した。
さりとて、ここで反論するなど愚の骨頂。
こんな屈辱を与えられたとしても、17年の人生に幕を降ろすのは惜しい。
ただ、やいのやいのと騒ぐこの取り巻き女たちは、いつ口を閉じるのだろうか。
ロッタはあまりの状況に虚ろな目をしながら、ホウキを拾い上げて時が過ぎるのをじっと待つ。そうすれば、突然、パンッと小さく手を打つ音がした。
音を鳴らしたのはマルガリータで、瞬時に、この東屋は水を打ったように静まり返った。
「ねえ、ロッタ。なら、こうしましょう。あなたが無事陛下の子を宿したら、少しくらいのお小遣いを差し上げるわ。それなら、良いでしょ?」
ロッタを見下ろすマルガリータは、まるで名案と言わんばかり微笑んだ。
そして、そのままくるりと身体の向きを変えて、取り巻き女たちに向け口を開く。
「さて、と。行きましょうか。ねえ、皆さん子が生まれたら、どんな産着を着せようかしら?」
「そうですわね、やはり真っ白なレースが一番でございますわね」
「ふふっ。わたくしもそう思いますわ。でも陛下によく似た男の子なら、水色も捨てがたいわ」
「さすがですわ、王妃。きっと陛下もお喜びになるでしょう」
賛辞を述べる取り巻き女たちを見て、ロッタは二の腕に鳥肌がたった。
まるで、マルガリータが出産するような口ぶりで、そこに代理出産をするという前提は無かった。
───……ああ、なるほど。私が使い捨てにされることは決定なんだ。
ロッタは至極冷静に、自分の置かれた現状を受け止めた。
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