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ああ、なるほどね……

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 子供というのは神様からの授かりものだ。

 そして神様にとったら、王妃も平民も同じ人間なのだ。そこに差別は無く、しかるべきところに子を授けるのだ。

 でも、この国の中枢である王宮内では、そんなこと、口に出してはいけない。

 なぜなら、国王陛下と王妃の元に赤ちゃんが来ないのは、しかるべきところでは無いという意味になってしまうから。

 マルガリータにとったら、そんなのは認めたくないのだろう。いや、認めてはいけないのだ。

 だから側室を国王に宛がい、他人の手を借りて世継ぎを儲けようとしているのだ。

 メイドとして王宮に入っても、やっぱり国王陛下と王妃の仲は良いと聞く。陛下は心からマルガリータを愛しているのは間違いないようだ。

 そんな愛してくれる夫に、自らの手で愛人を差し出すのはどれほど辛いことだろうか。

 ロッタはホウキを握る手を弱めた。

 夜伽をする、しないは、一先ず置いておいて、目の前の絢爛豪華な衣装を身に付ける女性は、自分より遥かに辛い状況なのだと気付き、憐憫の目を向けてしまう。

 と同時に、王妃の言葉にうんうんと一糸乱れぬ動きで頷き続けている取り巻きの女の一人から強い視線を受けているのに気付く。

 ロッタは探るような視線から逃れるように、つい俯いてしまう。

 実はロッタは、この王宮メイドとして働くにあたり、少々隠し事をしているのだ。もしかして、それがバレたのだろうか。

 いやでも、この取り巻き女たちは、身元がしっかりした高位の貴族令嬢のはずだ。だから、バレる訳がない。

 いやいやしかし、貴族というのは噂話が大好きだ。だから絶対に……とは言い切れない。

 そんなふうにロッタが冷や汗をかいていたら、取り巻き女はマルガリータに近づき何やら耳打ちをする。

 取り巻き女の唇が動く度にマルガリータの目が丸くなっていく。「ああ、なるほどね……」と、時折納得するマルガリータの仕草が怖くてたまらない。

 ロッタの背中は、冬も近い晩秋だというのに嫌な汗でびっちょりだ。

「……そうだったのね、ロッタ」

 ─── え゛、なにが?

 ロッタは食い気味に問うた。

 でも、喉がからっからに乾いていたせいで、あいにく声を出すことはできない。

 それはある意味正解で、マルガリータは、動揺するロッタを都合よく受け止めて、訝しい表情を浮かべることはしない。

 ただただ合点がいったと言わんばかりに、『そうね、そうなのね』を繰り返す。

 ───…… ねぇ、だから何が?

 今度は握っているホウキが手汗のせいでニュルルっと滑った。
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