2 / 37
ああ、なるほどね……
2
しおりを挟む
ロッタの申し出に、マルガリータは”少しなら”と条件付きで許可を出す。
ニュアンス的には、嫌だ聞いてくれるなと伝わってくるが、ロッタはそれを都合よく無視して口を開いた。
「わたくしが陛下の夜伽を務める……というのは本当なのでしょうか?」
「ええ、そうよ」
「それは何故でしょうか?」
「あなたがわたくしの髪と目の色が同じだからよ」
「……さようでございますか」
2つ目の質問をした瞬間、マルガリータの後ろに控えていた女性たちが悪鬼の如くロッタを睨みつけた。
そしてがっつりと「察してやれよ!」と訴えてくる。
もちろんロッタも、だいたいの事情は察している。
マルガリータは8年前に、この国の国王陛下であるルーファス・フィ・リンフィーザの元に嫁いだ。娘盛りの18の頃だった。
もともと建国から続く大貴族のご令嬢の輿入れときたものだ。それはそれは豪勢で華やかな婚礼の儀であったと聞く。
そしてその後も、マルガリータは国王陛下の寵愛を一身に受け、仲睦まじい夫婦であると国中の民が喜びの声を上げていた。
けれど、それから3年経過してもマルガリータが懐妊することはなかった。
そして4年目になると、マルガリータはこう呼ばれるようになってしまった─── 【石女王妃】と。
女性蔑視も甚だしい。
けれど、王妃の最大の仕事は世継ぎを産むこと。そもそも王宮というのは、一般的な倫理観が通らない場所である。
だからマルガリータはその不道理を逆手に取って奇行に出た。
ロッタはこの王宮メイドとして勤め始めて、まだ半年の新米メイドだ。でも、王妃の噂は王宮に入ってすぐに聞かされた。
王妃は自ら側室の選別をしていると。身分は二の次、容姿重視、とにかく自分の髪と目の色が同じであることを重要視していると。
『だからあんたも、お側室さまになれるかもね』
古参のメイドは、冗談交じりにロッタにそう言って笑った。対してロッタは、笑えなかった。
ロッタの髪は王妃と同じラベンダー色だ。そして瞳は濃い藍色。
でも、全く同じではない。ロッタの髪質は癖が無いが、マルガリータは緩く波打っている。瞳の色だって、良く見ればロッタの方が青みがかっている。
それに何より、身体つきも違えば顔のパーツだって違う。マルガリータは艶やかな美人であるが、ロッタは可愛らしいという表現からはみ出すことはできない。
「もう良いですわね。わたくし身体が冷えてしまいましたわ」
マルガリータは少し苛立った口調で、ロッタとの質問の時間を強引に終わらせてしまった。
すぐさま、取り巻きの女性達は「あらあら大変」と騒ぎだす。そして、そのまま東屋を後にしようとする。
でも、確認しなければならないことはまだ残っている。
「マルガリータ王妃、単刀直入に伺いますが、わたくしに陛下の側室になれと命じているのでしょうか?」
ストレートに問うた途端、マルガリータはぷっと吹き出した。後ろに控えている女性達も、同じように。
「ふふっ、あなたってとっても面白い人ね。あはっ、うふふっふふっ……可笑しくて、笑いが止まらないわ。ちょっと待って、ふふっ……」
マルガリータは、とんでもなく面白い冗談を聞いたかのようにしばらく笑い続けた。
でもロッタがいい加減、苛つきを覚え始めた頃、ようやっとマルガリータは口を開いた。無邪気な笑みを、侮蔑の笑みに変えて。
「メイドが側室なんて身分不相応も甚だしい。弁えなさい」
ニュアンス的には、嫌だ聞いてくれるなと伝わってくるが、ロッタはそれを都合よく無視して口を開いた。
「わたくしが陛下の夜伽を務める……というのは本当なのでしょうか?」
「ええ、そうよ」
「それは何故でしょうか?」
「あなたがわたくしの髪と目の色が同じだからよ」
「……さようでございますか」
2つ目の質問をした瞬間、マルガリータの後ろに控えていた女性たちが悪鬼の如くロッタを睨みつけた。
そしてがっつりと「察してやれよ!」と訴えてくる。
もちろんロッタも、だいたいの事情は察している。
マルガリータは8年前に、この国の国王陛下であるルーファス・フィ・リンフィーザの元に嫁いだ。娘盛りの18の頃だった。
もともと建国から続く大貴族のご令嬢の輿入れときたものだ。それはそれは豪勢で華やかな婚礼の儀であったと聞く。
そしてその後も、マルガリータは国王陛下の寵愛を一身に受け、仲睦まじい夫婦であると国中の民が喜びの声を上げていた。
けれど、それから3年経過してもマルガリータが懐妊することはなかった。
そして4年目になると、マルガリータはこう呼ばれるようになってしまった─── 【石女王妃】と。
女性蔑視も甚だしい。
けれど、王妃の最大の仕事は世継ぎを産むこと。そもそも王宮というのは、一般的な倫理観が通らない場所である。
だからマルガリータはその不道理を逆手に取って奇行に出た。
ロッタはこの王宮メイドとして勤め始めて、まだ半年の新米メイドだ。でも、王妃の噂は王宮に入ってすぐに聞かされた。
王妃は自ら側室の選別をしていると。身分は二の次、容姿重視、とにかく自分の髪と目の色が同じであることを重要視していると。
『だからあんたも、お側室さまになれるかもね』
古参のメイドは、冗談交じりにロッタにそう言って笑った。対してロッタは、笑えなかった。
ロッタの髪は王妃と同じラベンダー色だ。そして瞳は濃い藍色。
でも、全く同じではない。ロッタの髪質は癖が無いが、マルガリータは緩く波打っている。瞳の色だって、良く見ればロッタの方が青みがかっている。
それに何より、身体つきも違えば顔のパーツだって違う。マルガリータは艶やかな美人であるが、ロッタは可愛らしいという表現からはみ出すことはできない。
「もう良いですわね。わたくし身体が冷えてしまいましたわ」
マルガリータは少し苛立った口調で、ロッタとの質問の時間を強引に終わらせてしまった。
すぐさま、取り巻きの女性達は「あらあら大変」と騒ぎだす。そして、そのまま東屋を後にしようとする。
でも、確認しなければならないことはまだ残っている。
「マルガリータ王妃、単刀直入に伺いますが、わたくしに陛下の側室になれと命じているのでしょうか?」
ストレートに問うた途端、マルガリータはぷっと吹き出した。後ろに控えている女性達も、同じように。
「ふふっ、あなたってとっても面白い人ね。あはっ、うふふっふふっ……可笑しくて、笑いが止まらないわ。ちょっと待って、ふふっ……」
マルガリータは、とんでもなく面白い冗談を聞いたかのようにしばらく笑い続けた。
でもロッタがいい加減、苛つきを覚え始めた頃、ようやっとマルガリータは口を開いた。無邪気な笑みを、侮蔑の笑みに変えて。
「メイドが側室なんて身分不相応も甚だしい。弁えなさい」
13
お気に入りに追加
1,541
あなたにおすすめの小説
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
今さらなんだというのでしょう
キムラましゅろう
恋愛
王宮で文官として新たに働く事になったシングルマザーのウェンディ。
彼女は三年前に別れた男の子供を生み、母子二人で慎ましくも幸せに暮らしていた。
そのウェンディの前にかつての恋人、デニス=ベイカーが直属の上官として現れた。
そのデニスこそ、愛娘シュシュの遺伝子上の父親で……。
家の為に政略結婚している筈のデニスにだけはシュシュの存在を知られるわけにはいかないウェンディ。
しかし早々にシュシュの存在がバレて……?
よくあるシークレットベイビーもののお話ですが、シリアスなロマンス小説とはほど遠い事をご承知おき下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
誤字脱字も大変多い作品となります。菩薩の如き広いお心でお読みいただきますと嬉しゅうございます。
性行為の描写はありませんが、それを連想させるワードや、妊娠出産に纏わるワードやエピソードが出てきます。
地雷の方はご自衛ください。
小説家になろうさんでも投稿します。
私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました
ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」
国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。
なにやら証拠があるようで…?
※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*)
※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ★9/3『完全別居〜』発売
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる