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ああ、なるほどね……
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「ねえ、あなた。陛下と夜伽をしてちょうだい」
突然そんなことを言われた王宮メイドのロッタは、まず最初に自分の耳を疑った。
次に、目の前の女性─── マルガリータ王妃の頭を疑った。
失礼千万なのは重々承知しているが、【正気かコイツ】という目を向けてしまう。言葉に出さなかったことを自分自身で褒めてあげたい。
でも、マルガリータ王妃の思考は至って正常のようで、ロッタの不躾な視線を受けても柔らかい笑みで受け流すだけ。
「ふふっ、驚いているようね」
「はい」
ロッタが正直に頷けば、マルガリータはころころと声を上げて笑った。
ここは王宮内の中庭の端っこにある東屋。
ロッタはちょっと前まで、ここから少し離れたイチョウの木の下で、せっせと落ち葉を集めていた。
季節は晩秋で、日差しは穏やかであるが風は冷たい。
だからさっさと終わらせて、暖かいリネン室の手伝いをしたいと必死にホウキで掃いていた。
そして大方掃除を終わらせたロッタが、この場を去ろうとした途端、着飾った女性達に囲まれて、あれよあれよという間に、近くの東屋に連行されてしまったのだ。
それだけでも混乱するというのに、先ほどの夜伽命令。
ロッタはあまりにも驚きすぎたために、手に持っていたホウキをぎゅっと握って、お掃除できる箇所を探してしまう。
けれどここは王宮。やんごとなき方々が住まう場所。そう簡単にゴミなど落ちているわけがない。
「あら、そういばわたくしあなたの名前を聞いていなかったわ」
ロッタが混乱を極めているというのに、マルガリータはのんびりとそんなことを聞いてくる。
さすが雲の上の存在。下々の人間がどんな感情でいるかなど考えもしないのだろう。
でも悔しいが、ロッタは自分がメイドであることを自覚している。
「……わたくしロッタと申します」
「そう。可愛らしい名前ね。では、陛下は視察で北の領地に行ってらっしゃるから……そうね、夜伽は10日後。くれぐれも粗相の無いようお勤めなさってくださいね。では」
一方的に言い捨てたマルガリータは、着飾った女性達を引き連れてこの場を去ろうとする。
けれどロッタはさすがに「かしこまりました」と言って腰を折ることなどできるわけがない。
「あのっ、ちょっとお待ちください」
メイドが王妃に声を掛けることなど、重罪だ。即刻、解雇になってしまうほど。
でも幸いマルガリータは、不快な顔をすることなく足を止めて振り返ってくれた。ただその表情は、とてもきょとんとしていた。
「なあに?どうしたの?」
─── どうしたも、こうしたも……無い!!
ロッタはそう叫びたかったけれど、ぐっと堪えて「恐れながら」と前置きすると、この突拍子も無い命令について幾つか質問をすることを願い出た。
突然そんなことを言われた王宮メイドのロッタは、まず最初に自分の耳を疑った。
次に、目の前の女性─── マルガリータ王妃の頭を疑った。
失礼千万なのは重々承知しているが、【正気かコイツ】という目を向けてしまう。言葉に出さなかったことを自分自身で褒めてあげたい。
でも、マルガリータ王妃の思考は至って正常のようで、ロッタの不躾な視線を受けても柔らかい笑みで受け流すだけ。
「ふふっ、驚いているようね」
「はい」
ロッタが正直に頷けば、マルガリータはころころと声を上げて笑った。
ここは王宮内の中庭の端っこにある東屋。
ロッタはちょっと前まで、ここから少し離れたイチョウの木の下で、せっせと落ち葉を集めていた。
季節は晩秋で、日差しは穏やかであるが風は冷たい。
だからさっさと終わらせて、暖かいリネン室の手伝いをしたいと必死にホウキで掃いていた。
そして大方掃除を終わらせたロッタが、この場を去ろうとした途端、着飾った女性達に囲まれて、あれよあれよという間に、近くの東屋に連行されてしまったのだ。
それだけでも混乱するというのに、先ほどの夜伽命令。
ロッタはあまりにも驚きすぎたために、手に持っていたホウキをぎゅっと握って、お掃除できる箇所を探してしまう。
けれどここは王宮。やんごとなき方々が住まう場所。そう簡単にゴミなど落ちているわけがない。
「あら、そういばわたくしあなたの名前を聞いていなかったわ」
ロッタが混乱を極めているというのに、マルガリータはのんびりとそんなことを聞いてくる。
さすが雲の上の存在。下々の人間がどんな感情でいるかなど考えもしないのだろう。
でも悔しいが、ロッタは自分がメイドであることを自覚している。
「……わたくしロッタと申します」
「そう。可愛らしい名前ね。では、陛下は視察で北の領地に行ってらっしゃるから……そうね、夜伽は10日後。くれぐれも粗相の無いようお勤めなさってくださいね。では」
一方的に言い捨てたマルガリータは、着飾った女性達を引き連れてこの場を去ろうとする。
けれどロッタはさすがに「かしこまりました」と言って腰を折ることなどできるわけがない。
「あのっ、ちょっとお待ちください」
メイドが王妃に声を掛けることなど、重罪だ。即刻、解雇になってしまうほど。
でも幸いマルガリータは、不快な顔をすることなく足を止めて振り返ってくれた。ただその表情は、とてもきょとんとしていた。
「なあに?どうしたの?」
─── どうしたも、こうしたも……無い!!
ロッタはそう叫びたかったけれど、ぐっと堪えて「恐れながら」と前置きすると、この突拍子も無い命令について幾つか質問をすることを願い出た。
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