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当て馬になっても、やっぱり彼はカッコいい(のろけ)

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 ウェルドの考えた計画はこうだった。

 婚約が確定したウェルドは、ヴァネッサを婚前デートに誘う。ただ妹から心変わりした自分を他人に見られるのは恥ずかしいしので、知人のツテで大貴族様のプライベート庭園をチョイス。

 そしてデートを始めた直後、何気無さを装ってヴァネッサの前にアランが登場する。

 アランは「ここは自分の家のものだからご一緒して良いよね?」と強引に二人の間に入り込む。

 その後アランはウェルドがちょっと席を外した隙に、「実は前から好きだった。でも、婚約すると聞いていてもたってもいられなくて、ここに来てしまった。好きだ、あんな奴じゃなく私と結婚してくれ」と、ヴァネッサを口説く。

 秒で口説き落ちること間違いないが、百万が一ヴァネッサが「うん」と言わない場合は、最悪、挨拶程度に宝石をちらつかせモノで釣る。

 でもって、ヴァネッサが心変わりしたころに頃合いを見計らってウェルドが再登場。アランの口からヴァネッサを妻にすると宣言され、親友を詰るが最終的に二人を祝福してヴァネッサに別れを告げる。



 ─── 以上である。

 言葉にするなら存外楽じゃね?とお思いだろう。

 しかし、これは高度な演技力が試される。

 まずウェルドは、ヴァネッサに対して始終紳士的に接しないといけない。顔のひきつりすら、許されない。強い精神力を求められる。

 また親友に裏切られたといった体を装って、アランを詰らないといけないのだ。この間、彼は「ありがとう」という言葉は絶対に口にしてはいけない。

 次にアランだけれど、彼はもっと難しい演技を求められている。なにせ、ヴァネッサを熱烈に口説かないといけないから。思わず口説いている最中に彼が嘔吐しないか心配だ。

 しかも感謝されてしかるべき相手から罵倒されるのだ。「え?なんで?」と言いたくなること間違いない。でもその言葉は、計画が終わるまで禁止されている文言のひとつである。

 ちなみにティスタの役割は......無い。

 でもここに居るのは、理由がある。

 まかり間違っても、芝居見物より絶対に面白いから見に来たなどという下世話なものではない。すべてをこの目で見届けないといけないという責任感からである。

 それに公爵家嫡男の身を危険に晒すわけにはいかないのだ。有事の際は、自分が盾になろうとティスタは硬く心に決めて、ここにいる。

 最後にリスラッドに与えられた役割は、計画が頓挫した際、ヴァネッサを薬で眠らせるための調剤要員である。

 ヴァネッサは常日頃からアルコールを過剰摂取しているため、薬一つで眠らすにしてもプロの手が必要になる。友人を仲間外れにしたくないなどという理由から連れてこられたわけではない。

 そしてヴァネッサが薬で眠ったあと、即座に4人が再集合して第二の作戦会議を行う予定なのだ。戦略的撤退はするが、目的を達成するまでは何度だってチャレンジする所存である。
 



 ─── ゴーン、ゴーン。

 時計台の鐘が、空気を震わすように鳴り響く。

 今この瞬間から、壮大で恐れ知らずな計画が始まろうとしていた。
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