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温室に掛かる虹の橋(出所は父の吹いたお茶)

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 ざわつく使用人を横目に見ながら、ティスタはこの危機をどう乗り越えるか必死に頭を働かせていた。

(......もう式まで待たずに、結婚誓約書だけサインしちゃおうかな)

 人生で一度っきりの晴れ舞台。
 本当だったら、花の季節にヴァージンロードを歩きたかった。

 現在母と針仕事の得意なメイドと自分で、せっせこせっせこ作成しているお手製のウェディングドレスは、どう頑張ってもあとひと月はかかるだろう。

 なにせ一回しか着ないもの。仕立て屋に依頼すれば、とんでもない金額を請求されることを知っているティスタは、持ち前の刺繍の腕を活かして自力で作ろうと頑張っている。

 シンプルなベルラインのドレスだけれど総刺繍なら見栄えも良いし、敢えてのシンプルだと言い張れる。それに何より嫁ぐ前の最後の時間を母とゆっくり過ごすことができる。

 ということを呑気に思っていたけれど、事情が事情だけにそんな悠長なことは言ってられない。 

 ティスタはそっと、撃沈した母を見た。

 顔を覆っている母はティスタの視線に気づくと、指の隙間から唇を動かした。「ドレスは後回しで!」と読み取ることができた。どうやら母も自分と同じ考えのようだ。

 ティスタは「諦めなさい」と言われなかったことにホッと安堵の息を吐く。

(まぁ……結婚式は焦って挙げなくても、生活が落ち着いた後でもいっか)

 婚約期間中にうっかり子供を授かってしまうせっかちカップルが、出産を終えてから式を挙げるのはごくまれにあること。

 そしてその場合「夫側の父が急病になりまして、式を先延ばしにします」と伝えるのがシュハネード国では暗黙のルールである。

 ただティスタが式を先延ばしにするのは、そっちのせっかちではないので「妻側の父が急病になりまして……」とお知らせすべきだろう。

 長年姉の尻拭いの為に走り回ってきた父だ。正直、いつ心労から大きな病になってもおかしくはない。

 なのに、これまで元気に過ごしてきたのは、ひとえに我が家のシェフが貧乏ながらも栄養満点の食事を作り続けてくれたおかげだ。ありがとうございます。

 ティスタは、今も食材にお金を掛けられないからと、人知れず手間と時間をかけて夕食の下ごしらえをしてくれているシェフに感謝の念を送った。

 そうしてまた、お茶を一口飲もうとしてティーカップを持ち上げた。

「……あ」

 口に含む前に、ティスタは小さく声を上げる。

 本当に、本当に、今更なのだが、なぜヴァネッサが急にウェルドと結婚したいと言い出したのか疑問に思ったのだ。

 そこ一番大事!と思われるかもしれないが、これまでティスタはあらゆるものを姉から取り上げられてきた経緯がある。

 だから深く考えれば苛立つし、衝突が起きれば大規模な範囲で被害が及ぶことを身をもって知ってるため、思考を停止する癖がついてしまっていたのだ。
  
 けれど、ここはきちんと考えるべきところ。

 そして考えた結果、ヴァネッサがどうしてウェルドを欲したのか合点がいった。
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