どうしようもない姉に婚約者を寝取られそうになったので、彼よりもっとハイスペックな殿方を紹介することにしました。※但し、完璧なのは見た目だけ

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
6 / 24
温室に掛かる虹の橋(出所は父の吹いたお茶)

6

しおりを挟む
 ティスタは覚悟を決め、父を見る。

 視線を感じたラナウンドは、口パクで「任しておけ!」とティスタに伝える。そして表情を生真面目なものに変えると、ヴァネッサに向け口を開いた。

「ヴァネッサ、先ほどウェルド君と結婚したいと言っていたが、彼はティスタの婚約者だ。今回ばかりは……その……あれだ、あれ。ヴァネッサは美しい。近衛騎士の妻では勿体無い。父が近いうちにもっと良い相手を探してあげよう」

 ”駄目”と言ってしまえば、癇癪スイッチが入ってしまうことを痛いほど理解しているラナウンドは精一杯言葉を選びながらヴァネッサを説得する。

 しかし、遠回しなラナウンドの説得では到底無理だった。

「ふふっ、お父様はウェルドさまはティスタを気に入っているんだから諦めなさいと言っているのはわかりますわ。でもですね、ティスタ程度で満足する男なら、わたくしが妻になるって言ったら泣いて喜ぶでしょう?ええ、そうに違いないわ」

 その自信はどこから来るのかと突っ込みを入れたいところだが、このローウィ邸……いや、シュハネード国中を探したってそんな猛者はいないだろう。

「そう……そうなんだが……な?ヴァネッサ聞いてくれ。あの」
「ねえヴァネッサ。つかぬことを聞くけれど……ウェルドさまが年下であるのは、あなたも知っているわよね?」

 尋常じゃない汗をかきながらヴァネッサの説得に再びトライしようとしていたラナウンドを遮ったのは、妻のリアンネだった。

 そしてリアンネは、ヴァネッサの返答を待つことはせず畳み掛けるように口を開いた。

「あのねヴァネッサ、女の子っていうのは男性より精神年齢が高いの。だから4つか5つ年上の殿方の方が上手くいくと思うわ。ね、そうでしょ?あなた」
「あ、ああ。そうだ、そうだとも。母さんと私の年の差は4つだ。うん、確かにそうだ。ヴァネッサには幸せになって欲しいから4つか5つ上の殿方を今すぐ探そう」

 ローウィ夫婦は社交界でも有名なおしどり夫婦。かなり説得力がある。

 しかし、夫婦の連携プレイは木っ端微塵に破れ去った。

「はぁ?なんでわたくしが他人の意見を聞かないといけないわけ?それに、上手くいくか行かないかなんて愚かなことを考えないで。わたくしと結婚できるのだから、上手くいくに決まっているじゃないのっ」

 マジ切れ3秒前のそのヴァネッサの口調に、ラナウンドはお手上げだと言わんばかりに額に手を当て空を仰ぎ、リアンネは顔を両手で覆って項垂れてしまった。

 その様子をじっと見守っていたメイド達は胸に十字を切り、屋敷の経費を管理する執事のガッタに至っては、暴れだしたヴァネッサが温室を破壊するのを予測して、頭の中で修理費の見積もりを出していた。

 倉庫番というのは、いついかなる時も冷静でいなければならないのだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

処理中です...