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温室に掛かる虹の橋(出所は父の吹いたお茶)

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 ─── なぁーんていう姉ヴァネッサのあれやこれやを、ティスタはお茶を二口飲む間に回想してみた。

 それは、あまりの現実を直視したくなかったからで。

 だがしかし、放置しておけば更に状況は悪くなる。

(さあて、どうしたら良いのかしら……)
 
 三口目のお茶を口に含んだティスタは、頭の中でこの危機をどう回避するか考える。

 とはいえ全面戦争など論外。最悪、屋敷が吹っ飛ぶことになる。ここ最近、ようやっと財政難から逃れたのだ。また貧困生活を強いられるのは辛い。なにぶん季節は冬なので。

 それに、これまで散々苦労してきた両親には、せめて老後は穏やかに過ごしてほしい。それが高望みなら、どうかこの冬だけでも屋根のある生活を送って欲しい。

 とはいえ、穏便に”ちょうだいモード”に突入した姉をどうやって止めたら良いのだろうか。

 言葉一つで感情を爆発させる姉である。そしてヴァネッサは、これまでどんな手を使ってでも欲しいものを手に入れてきた実績がある。ある意味、不敗の王者なのだ。

 だがしかしティスタとて、これまでのように「どうぞ、お姉さま使ってくださいな」と言って婚約者を差し出す気は一ミリも無い。

 お知り合い期間1年。両片想い期間半年。隠れ交際期間1年。公認交際期間2年。計4年半のウェルドとの時間はティスタにとってかけがえの無いものであり、また、これから先の未来を共に歩んでいきたいのは彼だけだった。

(それに……ハーピー二世の妹を妻にしてくれる奇特な男は、これから先もきっと彼だけしかいないだろうし)

 そんなことを心の中でポツリと呟きながら、ティスタは4口目のお茶を口に含んだ。

 ハーピー二世の妹ことティスタは、どうしようもない姉に踏みつけられて生きてきたこともあり、齢17で悟りきった部分がある。
 
 しかし姉のヴァネッサとは違い、温厚で心根の優しい性格だった。

 姉の悪行を真似て破天荒なこともせず、愛情豊かに育ててくれたことを常に両親に感謝し、貧困生活に不満を漏らすこともせず、平民が通うアカデミーに自ら進学した。

 またノミより小さい姉の長所だけを見るようにして、姉が欲しがるものは素直に差し出し、(そう滅多に無いことだが)時には姉の肩を持つことだってした。

 しかし、今回ばかりは違う。

 ウェルドはリボンや宝石やぬいぐるみなんかじゃない。

 もちろん靴でもなければ帽子でもないし鞄でもない。血の通った人間なのだ。そしてティスタが唯一自分から欲したいと願った相手なのだ。

 最愛の男を取るか、世界平和を取るか─── ティスタは物分かりの良い性格ではあるが、決して善人ではない。無論、何を犠牲にしても彼を選ぶ所存である。
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