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彼女が選んだ復讐とは①
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死に戻ったフローレンスは、自分を殺した妹に復讐することを選んだ。
けれどその瞬間まで、一度目の生と同じような人生を歩むことにした。
フローレンスの生きる世界には沢山の人がいる。どうしたって他人と関わり合いを持たずに生きていくのは不可能で、以前と違う行動をとった際、その先どう自分の運命が変わるかわからなかったから。
万が一、妹に殺される前に死んでしまうかもしれないという可能性だってある。
だからフローレンスは、一度目の生の軌跡をなぞるように生きてきた。けれども、死に戻ってからずっと、己自身を変える努力はした。
それが、デビュタント前から手袋をしていた理由でもある。
毎晩、毎夜、フローレンスはこっそりと鍛錬を積み重ねていた。幼い頃は、天蓋付きのベッドに紐を括りつけて。身体が成長すれば部屋の頑丈な柱に代えて。
あの日、バルコニーにから突き落とされ時のことを思い出し、それを今度こそ回避するために。
フローレンスが通っていたアカデミーには、幸いにも小さな森があった。
そこで時間を見付けては、実際に突き落とされることを想定して木の枝にロープを括りつけて、確実にそれを掴む練習を積み重ねた。
もちろんあまりに稚拙で単純すぎる方法だというのは自覚していた。他にもっとやりようがあることだってわかっていた。
自分の手のひらにマメができて潰れて、一生消えないタコができることにフローレンスだって辛い気持ちでいた。
でも自分が描いた復讐のシナリオ通りにするためには、二度目の人生でもバルコニーにから突き落とされなければならなかった。
そこからが本当の復讐だったから。
「─── 婚約者の私の前でだって、一度も手袋を外さなかったのはこれが理由なのかな?」
ラヴィエルはフローレンスを抱きかかえたまま言った。
その口調は軽いものだったけれど、言葉の節々にトゲがある。
(一生誰にも言うつもりはなかったけれど……)
きっと誤魔化したところで、彼は納得できないだろう。ただ全てを信じてもらえるとは思っていない。
「……後で、話しますので……もう少しお待ちください」
「わかった。じゃあ、一先ずこれが先だね」
不本意ながらフローレンスの要求を吞んだラヴィエルは、すぐ近くにある花壇に腰掛けた。手のひらから血を流す婚約者を手当するために。
対して手当を受ける側はとても気まずい表情を浮かべている。なぜなら彼の膝に着席する格好になっているからで。
「降ろしてはいただけないのですか?」
「いただけないな」
「……でも」
邸宅には沢山の使用人がいる。そして先ほどの転落未遂のおかげで騒然としており、気遣う使用人達の視線を痛いほど感じている。
なのにラヴィエルは、それらの視線を撥ねつけるようにフローレンスに厳しい目を向けた。
「私は君の要求を吞んだ。なら、君だって私の要求を吞むべきではないのか?」
「……っ」
これまでずっと紳士的に、穏やかに接してくれていた彼だけれど、今は別人のような物言いをしている。
本気で彼を怒らせてしまったことを自覚したフローレンスは、大人しく観念して手のひらを彼に差し出した。
けれどその瞬間まで、一度目の生と同じような人生を歩むことにした。
フローレンスの生きる世界には沢山の人がいる。どうしたって他人と関わり合いを持たずに生きていくのは不可能で、以前と違う行動をとった際、その先どう自分の運命が変わるかわからなかったから。
万が一、妹に殺される前に死んでしまうかもしれないという可能性だってある。
だからフローレンスは、一度目の生の軌跡をなぞるように生きてきた。けれども、死に戻ってからずっと、己自身を変える努力はした。
それが、デビュタント前から手袋をしていた理由でもある。
毎晩、毎夜、フローレンスはこっそりと鍛錬を積み重ねていた。幼い頃は、天蓋付きのベッドに紐を括りつけて。身体が成長すれば部屋の頑丈な柱に代えて。
あの日、バルコニーにから突き落とされ時のことを思い出し、それを今度こそ回避するために。
フローレンスが通っていたアカデミーには、幸いにも小さな森があった。
そこで時間を見付けては、実際に突き落とされることを想定して木の枝にロープを括りつけて、確実にそれを掴む練習を積み重ねた。
もちろんあまりに稚拙で単純すぎる方法だというのは自覚していた。他にもっとやりようがあることだってわかっていた。
自分の手のひらにマメができて潰れて、一生消えないタコができることにフローレンスだって辛い気持ちでいた。
でも自分が描いた復讐のシナリオ通りにするためには、二度目の人生でもバルコニーにから突き落とされなければならなかった。
そこからが本当の復讐だったから。
「─── 婚約者の私の前でだって、一度も手袋を外さなかったのはこれが理由なのかな?」
ラヴィエルはフローレンスを抱きかかえたまま言った。
その口調は軽いものだったけれど、言葉の節々にトゲがある。
(一生誰にも言うつもりはなかったけれど……)
きっと誤魔化したところで、彼は納得できないだろう。ただ全てを信じてもらえるとは思っていない。
「……後で、話しますので……もう少しお待ちください」
「わかった。じゃあ、一先ずこれが先だね」
不本意ながらフローレンスの要求を吞んだラヴィエルは、すぐ近くにある花壇に腰掛けた。手のひらから血を流す婚約者を手当するために。
対して手当を受ける側はとても気まずい表情を浮かべている。なぜなら彼の膝に着席する格好になっているからで。
「降ろしてはいただけないのですか?」
「いただけないな」
「……でも」
邸宅には沢山の使用人がいる。そして先ほどの転落未遂のおかげで騒然としており、気遣う使用人達の視線を痛いほど感じている。
なのにラヴィエルは、それらの視線を撥ねつけるようにフローレンスに厳しい目を向けた。
「私は君の要求を吞んだ。なら、君だって私の要求を吞むべきではないのか?」
「……っ」
これまでずっと紳士的に、穏やかに接してくれていた彼だけれど、今は別人のような物言いをしている。
本気で彼を怒らせてしまったことを自覚したフローレンスは、大人しく観念して手のひらを彼に差し出した。
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