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6.他称ロリコン軍人は、毒舌少女の願いを叶える
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「あなた連行された時、私はもう既に領印を破壊してました。だからレイカールトン侯爵が私を妻にと望んでもらっても罪人と結婚するわけないって決めつけていたから」
「いたから何だ?」
「まぁ、利用するだけ利用したら……その……」
「その、何だ?」
「いや、まぁ……そのまま婚約の件は無かったことに─── はい。ごめんなさい」
言い訳をしていたつもりだったけれど、口にすればそれはとんでもなく失礼だったことに気付いたベルは素直に謝った。
けれど銀髪軍人は半目のままだった。ちょっとやそっとじゃ許してくれそうもない。
「はぁーん。なるほどな。良かったな、ベル。レイカールトン侯爵が変態じゃなくって。俺が変態だったら、利用されていたのは俺じゃなくて、あんただったぞ」
「……ソウデスカ」
「で、俺をどう利用しようとしていたんだ?」
気まずさから目を逸らしたベルを逃がすまいとレンブラントは身体の向きを変える。
そしてがっつりと目を合わせて、しかも軍人オーラを全開にして「答えろ」と短く言う。
その態度は恋人相手にどうよと思うが、自分もなかなかのことをしでかしてしまった自覚があるベルは、素直に質問に答えることにする。
「私、レイカールトン侯爵のこと……実はあなたに連行される前から知っていたんです」
「は?そうなのか?」
「はい。師匠が……あ、執事のパウェルスが言ったんです。王都にいるレイカールトン侯爵を頼れって。相手が私のことを知らなくっても、父の名を出せば絶対に助けてくれるはずだって。でも婚約云々とは一言も……」
「パウェルス……ああ、あの爺さんか。なるほどな」
「もしかして、師匠のこと、以前からご存じで?」
「いや、今日が初対面だ。だが団長からは何度か話は聞いていた。そうか。……だから、か」
ふむ、とレンブラントは難解なパズルを解いたかのように、納得したような表情を浮かべた。
「つまり、あんたは俺が迎えに行かなくても、俺を頼る気でいたってことか」
「まぁ、そうなります」
紆余曲折あったが、ベルはレイカールトン侯爵に助けを求めたくって、急に現れた軍人の馬車に乗ったのだ。
そして結果としてベルはレイカールトン侯爵に助けられた。つまり全て予定通りで、丸く収まった。
「─── ありがとうございました」
「は?藪から棒にどうした??」
突然、表情を改めて頭を下げたベルに、レンブラントは目を丸くする。
「ケルス領の為に尽力してくれたこと。私、ちゃんとあなたにお礼を言ってなかったから」
「んなもん気にするな。それよりもうそろそろ正しい俺の名前を呼んでもらいたいもんだ」
大きな手がベルの頭を撫でる。それは大型犬をあやすような仕草で、どことなく名を呼ばれることを強請っているかのような動きで。
「レンブラントさん」
「……ん」
レンブラントの吐息と共に零れた一言は甘さを含んでいて、とても嬉しそうだった。
そして彼はそのままの口調でベルに問いかける。
「なあ、ベル。俺はあんたの軍人嫌いを払拭できたか?」
好きだと伝えたはずなのに何を今更と思いつつも、ベルはしっかり「はい」と声に出してから頷いた。
「いたから何だ?」
「まぁ、利用するだけ利用したら……その……」
「その、何だ?」
「いや、まぁ……そのまま婚約の件は無かったことに─── はい。ごめんなさい」
言い訳をしていたつもりだったけれど、口にすればそれはとんでもなく失礼だったことに気付いたベルは素直に謝った。
けれど銀髪軍人は半目のままだった。ちょっとやそっとじゃ許してくれそうもない。
「はぁーん。なるほどな。良かったな、ベル。レイカールトン侯爵が変態じゃなくって。俺が変態だったら、利用されていたのは俺じゃなくて、あんただったぞ」
「……ソウデスカ」
「で、俺をどう利用しようとしていたんだ?」
気まずさから目を逸らしたベルを逃がすまいとレンブラントは身体の向きを変える。
そしてがっつりと目を合わせて、しかも軍人オーラを全開にして「答えろ」と短く言う。
その態度は恋人相手にどうよと思うが、自分もなかなかのことをしでかしてしまった自覚があるベルは、素直に質問に答えることにする。
「私、レイカールトン侯爵のこと……実はあなたに連行される前から知っていたんです」
「は?そうなのか?」
「はい。師匠が……あ、執事のパウェルスが言ったんです。王都にいるレイカールトン侯爵を頼れって。相手が私のことを知らなくっても、父の名を出せば絶対に助けてくれるはずだって。でも婚約云々とは一言も……」
「パウェルス……ああ、あの爺さんか。なるほどな」
「もしかして、師匠のこと、以前からご存じで?」
「いや、今日が初対面だ。だが団長からは何度か話は聞いていた。そうか。……だから、か」
ふむ、とレンブラントは難解なパズルを解いたかのように、納得したような表情を浮かべた。
「つまり、あんたは俺が迎えに行かなくても、俺を頼る気でいたってことか」
「まぁ、そうなります」
紆余曲折あったが、ベルはレイカールトン侯爵に助けを求めたくって、急に現れた軍人の馬車に乗ったのだ。
そして結果としてベルはレイカールトン侯爵に助けられた。つまり全て予定通りで、丸く収まった。
「─── ありがとうございました」
「は?藪から棒にどうした??」
突然、表情を改めて頭を下げたベルに、レンブラントは目を丸くする。
「ケルス領の為に尽力してくれたこと。私、ちゃんとあなたにお礼を言ってなかったから」
「んなもん気にするな。それよりもうそろそろ正しい俺の名前を呼んでもらいたいもんだ」
大きな手がベルの頭を撫でる。それは大型犬をあやすような仕草で、どことなく名を呼ばれることを強請っているかのような動きで。
「レンブラントさん」
「……ん」
レンブラントの吐息と共に零れた一言は甘さを含んでいて、とても嬉しそうだった。
そして彼はそのままの口調でベルに問いかける。
「なあ、ベル。俺はあんたの軍人嫌いを払拭できたか?」
好きだと伝えたはずなのに何を今更と思いつつも、ベルはしっかり「はい」と声に出してから頷いた。
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